【葬光花が咲く夜に】


淡い光を放つ葬光花。

人が亡くなると花を咲かせるという。

その人が無事に辿り着けるように。

道標として光り続ける。


〚ご注意〛

・キャスト様の性別は問いませんが、登場人物の性別変更は不可です。

・アドリブは世界観を壊さない程度でお願いします。



‪《登場人物》

①月神(せれね)(女性)

神子様(みこさま)。

唯一儀式を行える人。

輝と華とは幼なじみ。


②華(はな)(女性)

明るく楽天的。

輝と月神とは幼なじみ。


③輝(ひかる)(男性)

しっかり者で真面目。

華と月神とは幼なじみ。


④會崩(かいほう)(男性)

たまたま村に辿り着き、葬光花の研究をしようとしている学者。

娘と研究第一で、他の事はどうでもいい。




-------❁ ❁ ❁-----ここから本編-----❁ ❁ ❁-------




月神:「(語り)葬光花(そうこうか)が一輪咲くと、一人が旅立つ。その光に導かれて、上へ上へと昇っていく。一人に一輪。その光が暗闇を照らし、その者が向かう道を示すだろう。思うがままに進むが良い。そこがそなたのいるべき場所なのだから。そなたの安寧の地へ導いてくれるだろう。

そなたの光が潰える(ついえる)まで、神の身元へ辿り着くまで、我々神子(みこ)が手助けをしよう。そなたの旅の無事を祈り、見守ろう。どうかご無事で。どうかどうか安らかに。」




(しばらくの間)




華:「今日も葬光花が咲いてるね。」

輝:「そうだな。」

華:「相変わらず、淡い光が綺麗だね。」

輝:「そうだな。」

華:「今日は誰だったんだろう。」

輝:「村外れの森の境に住んでた、ばあちゃんだって話だ。」

華:「あぁ、咲ばあちゃんか。そっか、旅立ったんだ。」

輝:「仲良かったのか?」

華:「うん、よく山菜の煮付け貰ってた。私もお返しにうちの大根あげたりさ。」

輝:「そっか。」

華:「・・・月神(せれね)、今日も葬送の舞、踊ってるのかな。」

輝:「踊ってるだろうな。月神(せれね)は神子様(みこさま)の家系だからな。誰かが旅立つと、無事を祈って舞を踊る。」

華:「私、うちのじいちゃんが旅立った時に一度見た事あるけど、なんかすごく綺麗で、神秘的だったな。月神じゃないみたいだった。」

輝:「そりゃ神の使いだからな。舞を踊っている間は、月神であって月神じゃない。」

華:「神の使いかぁ・・・。

ちっちゃい頃は、よく一緒に遊んでたけど、月神が神子様を継いでから、ほとんど会えなくなっちゃった。」

輝:「それはしょうがないだろ。ただの村の住民の俺達とは、根本的に違うんだよ。」

華:「あ!ねぇ!お社にお参りに行ってみよっか!月神に会えるかもしれないし!」

輝:「は?何言ってんだよ。神子様に会うのは、催事の時だけって決まってるだろ。」

華:「神子様に会いに行くんじゃないもん。月神に会いに行くんだもん!いいじゃん、ねっ?会えなかったら諦めるから!」

輝:「えぇ〜?」

華:「ほら!いこっ!」

輝:「あ、ちょっと!待てよ!」




(しばらくの間・社)




華:「(M)山の山頂にあるこのお社は、私達の村を一望できる。そして、葬光花が咲けば、一目で分かる。まさに神子様が住むにはうってつけのお社だ。

葬光花は、神子様しか手折れない、不思議な花だ。神子様以外が手折ると、途端に枯れてしまう。

神子様が手折った葬光花は、光を放ち続け、亡くなった人があの世へ行く時の明かりになると言われている。

旅立つ時の道標にと、一緒に埋葬されるのがこの村の習わしだ。」




(華、輝、お参りする)




華:「・・・月神、いないね。」

輝:「お社の中だろ。」

華:「そうだろうけどさ。」

輝:「気が済んだか?気が済んだなら帰ろう。」

華:「え~?もうちょっと・・・・・・あっ!」

輝:「え?」

華:「月神!」

月神:「・・・え?」

輝:「だから!まずいって、声掛けたら!あいつは神の使いなんだぞ!」

華:「だって、月神は月神じゃん!友達でしょ?私達。」

輝:「だーかーらー!」

月神:「ふふっ。相変わらずだね、華ちゃん。」

華:「月神!久しぶり!」


(輝、膝まづく)


輝:「み、神子様。大変失礼致しました。本日はお日柄もよく・・・」

華:「何畏まってんの?」

輝:「だから!お前は!立場を弁えろよ(わきまえろよ)!」

月神:「ふふふっ。大丈夫だよ、今は三人だけだし。私達、友達でしょう?」

華:「ねー!」

月神:「うん。」

輝:「あー・・・、月神が良いって言うんなら・・・。」

華:「輝、月神の言葉だけは聞くんだから。」

輝:「お前が俺の言葉を聞かないだけだろ。」

華:「そんな事ないよ。」

輝:「そんなことありますー。」

華:「えー?」

月神:「ふふふっ。相変わらずだね、二人とも。」

華:「あ、月神、葬送の舞は終わったの?」

月神:「うん、もう、咲ばあちゃんの葬儀は終わったよ。無事葬送の舞も舞い終わって、葬光花も一緒に送ってあげたから、大丈夫。」

華:「そっか。咲ばあちゃん、無事旅立ったかぁ。」

月神:「安らかな顔だったよ。」

華:「よかった。」

輝:「お疲れ様、月神。」

月神:「うん、ありがとう。」

輝:「あ、葬光花といえば、今、葬光花の研究をしたいって、学者さんが村に滞在してるらしいぞ。」

華:「あ、私も聞いた!村長のところに直談判に来たんでしょ?」

月神:「私の所にも、儀式を見学させてほしいっていらしたんだけど、ご遺族の方のこともあるから、お断りしているの。でも、何回もいらっしゃるから、だんだん断りづらくなってきていて・・・。」

輝:「村長の所に来た時も、毎日通われて、根負けしたみたいだな。」

華:「私達にとっては日常の風景でも、外の人達にとっては、葬光花って珍しいんだね。」

輝:「なんか、

『人の生死に反応して咲くなんて!どういう風に感知しているんだろう!研究しがいがある!』

とか力説してたぞ。」

華:「なんかちょっと、イッちゃってたよね。」

輝:「おまえなー。言葉を選べよ。

・・・まぁ、分かるけど。」

月神:「ふふっ。

でも、そうね。私達にとっても、葬光花は故人を偲ぶ大切な花だもの。ちょっと心配ね。」


(月神、人の気配に気づく)


月神:「っ!はい!今行きます!


月神:「(小声)ごめんね、二人とも。戻らなくちゃ。また会いに来てね。」

華:「(小声)うん!またね!」

輝:「(小声)またな。」




(しばらくの間)




月神:「お待たせ致しました。」

會崩:「何度も何度も申し訳ないですね、神子様。」

月神:「いえ。」

會崩:「いえね、こちらとしても、なんとか葬光花を研究したいと必死でしてね。

どうか儀式で神子様が舞を踊っている所を、見せてはくれませんかね?

なんでも、舞を踊っている間は、葬光花の光が強くなるらしいじゃないですか。」

月神:「・・・故人を送る舞ですから。葬光花の光が、故人の道を明るく照らす為に、舞に反応して光が強くなると言われています。」

會崩:「それを実際に拝見出来れば、研究も進むと思うのですがねぇ。どうですか?ひとつ見せては貰えませんか?」

月神:「・・・ですから、何度も申し上げました通り、故人を送る儀式です。ご遺族のお気持ちもありますし、了承致しかねます。

どうか、お引き取り下さい。」

會崩:「そこをなんとか!ね!お願いしますよ!」

月神:「申し訳ありません。お引き取りを。」

會崩:「・・・そうですか・・・。

こんなに頼んでもダメなんですね。

でも私は諦めませんよ。また明日来ます。」

月神:「何度頼まれても、こればかりは了承致しかねますので。」

會崩:「いいえ。絶対見せて頂きますよ。私はこの花の研究に賭けているんだ。

・・・・・・どんな手を使っても・・・。」

月神:「え?あ!ちょっと!」




(少しの間)




會崩:「私はもう後がないんだ。

絶対に、この花の研究を学会で発表してやる。

業界でなんの立場も名誉もない私が、成り上がるためにはこの花でなくては!

新種も新種、大発見だぞ!

こんな花がある事が分かったら、皆こぞってここにやってくるに違いない。

その前に!私が!私こそが葬光花の権威にならなくては!

この村に来たのは、本当に偶然だった。

学会仲間の誘いで、お偉いさんも来るから、顔を売るチャンスだと参加したキャンプでたまたま遭難し、迷い込んだのがこの村だ。

地図にも載っていないこんな小さな村に迷い込んで、自分の不運を呪ったが、間違いだった!チャンスはここにあった!このチャンスを逃す手はない!

なんとしても研究を成功させてやる。

何をしてでも・・・。

・・・そうだ・・・、多少の犠牲は仕方ない・・・。

これが成功すれば、娘の治療費だって・・・。

娘が・・・これ以上苦しむことも無くなるんだ・・・。

そうだ・・・、そうだとも・・・。

多少の犠牲は・・・。」




(しばらくの間・次の日)




輝:「華~、来たぞ~。」

華:「輝!ごめん、ちょっと待って~!今行く!」

輝:「なんだ?また寝坊か?」

華:「昨日遅くまで咲ばあちゃんとこ行ってたから・・・。」

輝:「そっか。」

華:「うん、片付け手伝って、最期のお別れしてきた。」

輝:「俺も早い時間に行ったけど、本当に安らかな顔だったな。」

華:「うん。

よしっと!お待たせ!行こう!」

輝:「今日は華んちの畑で、芋の収穫だからな。冬越すための大事な食料だ。気合い入れてけよ!」

華:「分かってる!

輝、手伝ってくれてありがとうね。」

輝:「お互い様だろ。」

華:「うん。」

輝:「最近この辺りに熊も出るらしいし、一人で畑に行ったりするなよ。」

華:「うん、輝もね。」

輝:「ああ、お互い気をつけような。」




(少しの間・畑)




華:「よしっ!こっちの畑の分は収穫終わったし、あとは明日かな。」

輝:「そうだな。この分だと、明後日にはほとんど取り終わるな。」

華:「あとは帰って、保存用に干し芋作らなきゃ。」

輝:「そうだな。干し芋は焼くとうまいんだよなぁ。今から楽しみだ!」

華:「輝、本当に干し芋好きだね。」

輝:「華んとこの干し芋は、なんであんなに甘いんだろうなぁ。」

華:「愛情がこもってるからね!輝に美味しく食べて貰えるように♪」

輝:「ははっ!ありがとな。」

華:「・・・ほんとだよ?」

輝:「ん?」

華:「本当にいっぱい愛情こもってるよ。」

輝:「え?」

華:「・・・。」

輝:「それって・・・、どういう・・・。」

華:「し、知らない!自分で考えて!」

輝:「お、おう・・・。」

華:「・・・。」

輝:「・・・。」

華:「私さ、夢があるの。」

輝:「・・・夢?」

華:「うん。私、この村が大好き!皆暖かくて、優しくて。

若い人達は皆都会に出て行っちゃうけど、私は、この村で、好きな人と結婚して、子供産んで、ふふっ、おばあちゃんになるまで、家族に囲まれて生きていきたい。そんな夢。」

輝:「・・・うん。」

華:「輝と・・・ずっと一緒にいれたらいいな。」

輝:「うん。」

華:「・・・『うん』だけ?」

輝:「うん・・・。」

華:「・・・もう。」

輝:「今度、ちゃんと言うよ。」

華:「・・・うん。」




(少しの間・社)




會崩:「神子様、お願いしますよ。」

月神:「何度いらっしゃって頂いても、答えは変わりません。お引き取りください。」

會崩:「そんなに邪険にしないでくださいよ。そんなに邪険にされると、私も手段を選んでいられなくなってしまう。」

月神:「・・・どういう意味ですか?」

會崩:「どういう意味でしょうねぇ?」

月神:「・・・。

何かされるという事ですか?

もしあなたが何かをしても、私は村民の尊厳を守るために、儀式に参加させるという事は(断固としてお断りさせて頂きます。)」

會崩:「(被せて)例えば・・・、例えばそう、村民が一夜で大量死したとしたら・・・、合同葬儀とかになるんですかね?」

月神:「・・・!

・・・何を・・・何をなさるおつもりなのですか・・・?」

會崩:「いやいや、例えばの話ですよ。例えば・・・そうだな・・・、山火事が起きて、村民全員が焼け死んだら、合同葬儀になりますかね?誰でも参列できるように・・・。」

月神:「っ!何を!」

會崩:「いやだってねぇ、絶対にないとは言えないじゃないですか。空気も乾燥してますし、もうすぐ冬だ。火もよく使うでしょ?」

月神:「・・・そんな事は・・・させません。」

會崩:「え?させません?私は何もしないですよ?例えばの話です。間違ってストーブを倒してしまったりとか、あるじゃないですか。」

月神:「・・・・・・・・・。」

會崩:「ね?」

月神:「・・・・・・分かりました。」

會崩:「え?」

月神:「分かりました。儀式をお見せします。」

會崩:「あぁ!ありがとうございます!」

月神:「・・・くっ。

ですが、ご遺族の方が了承した場合のみです。そこだけは譲れません。」

會崩:「分かりました。それで構いません。ご遺族の方には、私がお話しても?」

月神:「!いえっ!やめて!

・・・私がお話します。あなたは手を出さないで・・・。」

會崩:「手を出すとは、どういう意味ですかね?私はただ、お話を(しようと思っただけなんですがね)」

月神:「(被せて)私からお話しますので!」

會崩:「そうですか。ではよろしくお願いします。では本日はこれで失礼します。

・・・くれぐれもよろしくお願いしますよ。」


(會崩去る。)



月神:「・・・(苦悶)。」




(少しの間)




月神:「(M)私は、村の誰にもあの時のやり取りを伝えられないでいた。その間に村民が亡くならなかったのは幸いだった。

誰にも相談できず、時だけが過ぎていった・・・。

その間にもあの男は、葬光花の研究を続けているようだった。

毎日毎日、社に訪ねてきては、どうですかと聞いてくる。

私は村の皆を守りたい。安心して暮らしてほしい。旅立つ時は安らかに行ってほしい。そう願っているだけなのに。

ただそれだけなのに・・・。」




(しばらくの間)




華:「あ!月神〜!」

輝:「ばっ!バカっ!おまえっ!声がでかい!」

華:「輝も声大きいよ〜?」

輝:「だから、周りに聞かれでもしたら・・・。」

月神:「ふふふっ。」

華:「?なんで月神は笑ってるの?」

月神:「相変らすだな、って。」

華:「え〜?」

輝:「華のせいで笑われたんだぞ。」

華:「私?」

輝:「そうだろ。」

月神:「ふふふっ、あはははは!」

華:「え?そんなにおかしい?」

輝:「お前はいつでもおかしい!自覚をもて!」

華:「またそんなこと言って〜!」

輝:「本当のことだろ?」

月神:「ふふっ、あはは!

・・・ごめんごめん。なんかほっとしちゃって。」

華:「え?」

輝:「・・・何かあったのか?」

月神:「・・・うん、ちょっとね。でも、二人のおかげで元気出た。」

華:「それは良かった!私達の漫才も、人の役に立つことあるんだねぇ。」

輝:「俺は漫才するつもりはないんだけどな。」

華:「え!?才能あるのに!」

輝:「華がボケるから仕方なくだなぁ!」

華:「私はボケてないのに、輝は全部につっこむからねぇ。」

輝:「え!?あれでボケてないのか!?」

華:「えー!?」

月神:「ふふふっ!あははははははははっ!」




(少しの間)




輝:「それで?何があったんだよ。」

月神:「・・・・・・うん。」

華:「話して楽になることだったら、聞くよ?」

月神:「・・・二人に話していいのかどうか・・・。重荷を背負わせちゃう気がして・・・。」

華:「私達なんか、なんにも背負ってないんだからいいんだよ!月神は背負いすぎだよ!」

輝:「そうだよ。話してみろよ。力になれるかは分からないけど、俺達、友達、だろ?」

月神:「・・・ありがとう。」


月神:「(M)私は、あの男とのやり取りを二人に話してしまった。」


輝:「あの野郎!そんなことを!」

華:「脅迫じゃん、それ!」

月神:「・・・うん。」

華:「警察!警察に言おうよ!」

輝:「そうだな。殺人予告みたいだもんな。」

月神:「うん、私もそれは考えたんだけど、電話も繋がらないこんな山奥じゃ、街へおりるしかないでしょう?私が街におりたことを知ったら、怪しまれるんじゃないかって・・・。」

華:「そっかぁ。」

輝:「そこはさ!俺達がいるだろ?」

華:「あ!そうだね!私達が街へ行ってくるよ!

月神がいなかったら目立つけど、私達が街に出かけても、買い出しだって言えるしね!」

月神:「でもあの男が気づいたら、阻止されるかも・・・。」

輝:「こっちに向かってくるんだったら、対処の仕様があるよ。村を盾に取られてたら、こっちからは手出し出来ないけどさ。」

華:「そうだね!私たち若いし!力じゃ負けない!!」

月神:「でも・・・なんか、異様な執念というか・・・、鬼気迫るものがあると言うか・・・。とにかく尋常じゃなかったの。」

華:「大丈夫!!任せて!!」

輝:「うん。とにかく行ってくるよ。」

月神:「え?今から?」

輝:「善は急げって言うだろ?早いに越したことはない!」

華:「そうだね!すぐ出発しよう!」

月神:「・・・二人とも・・・ありがとう。でも本当に気をつけてね。」

輝:「ああ。月神も、十分気をつけてな。」

月神:「うん、ありがとう。」

華:「じゃ、行ってくるね!」

月神:「・・・気をつけて。」




(少しの間)




輝:「華、なるべく目立たないように、森から街に抜けよう。」

華:「うん、そうだね。人目につかない方がいいもんね。」

輝:「うん。仮に會崩が気づいて追いかけてきても、森なら俺たちに利がある。」

華:「へへっ。二人で散々遊んでたもんね。」

輝:「そうだな。森は俺たちの庭みたいなもんだ。」

華:「うん!」



會崩:「おやぁ?お二人さん。どこに行くんですか?」



輝:「!」

華:「!」

會崩:「先程まで、神子様と会っていたようですが、そんなに急いでどこに?」

華:「!」

輝:「こいつっ!知って・・・。」

會崩:「私はなんでも知っていますよ。なんでも・・・ね。」

華:「・・・隠れて聞いてたの?」

輝:「くっ!」

會崩:「私にはもう、これしかないのです。イバラの道でも、突き進むしかない。」


(會崩、ボウガンを構える)


華:「!

ボウガンなんてどこから・・・。」

會崩:「村外れのばあさんの家からですよ。大方熊対策でしょ?」

輝:「華!俺の後ろに隠れてろ!」

華:「でも!」

輝:「いいから!」

會崩:「力では適わないかもしれない。でもこれならどうかな?」

華:「全部聞いてたの?」


(會崩、矢を放つ)


輝:「がっ!!」

華:「輝!!」

會崩:「はーっはっはっは!痛いですよねぇ。でもあなた達が悪いんですよ。私は葬光花の研究をしたいだけなのに、邪魔ばかりするから。」

輝:「あんたが物騒なこと言い出すからじゃねぇか!」

會崩:「おや?物騒なこととは?私は心配をしていただけですよ。この乾燥している季節に、火の元には気をつけないとね、と。」

華:「それが脅迫だって言ってるのよ!」

會崩:「脅迫?そんなことはしていませんよ。だからここは穏便に、村に戻ってくれませんかね?」


(會崩、再びボウガンを構える)


輝:「くっ!」

華:「!」

輝:「(小声)華、次あいつが打ったら、お前は走って街へいけ。」

華:「え!?」

輝:「(小声)声がでかい!街へ出て、警察に駆け込め!」

華:「(小声)だって!輝は?」

輝:「(小声)俺はここであいつを足止めする。」

華:「(小声)やだ!」

輝:「(小声)こんな時くらい、俺の言うこと聞け!」

華:「(小声)やだ!」

輝:「(小声)華!・・・月神を助けたいんじゃないのか?」

華:「(小声)だからって!」

輝:「(小声)俺は村を失いたくない。」

華:「(小声)!」

輝:「(小声)お前と帰る大事な村を、救いたい。お前の夢を、守りたい。」

華:「(小声)・・・輝。」

輝:「(小声)・・・わかったな?走れよ。」

華:「(小声)・・・うん。」

會崩:「話し合いは終わったかな?さぁ、二人仲良く、村に戻るんだ。」

輝:「いやだ!」

會崩:「バカが・・・。」


(會崩、矢を放つ)


輝:「ぐあっ!」

華:「!・・・くっ!」


(華、走り出す)


會崩:「!」

輝:「行けーーー!立ち止まるなーー!」

華:「っ!」

會崩:「このっ!」


(會崩、ボウガンを華に向ける)


輝:「お前はこっちだ!」


(輝、會崩に殴り掛かる)


會崩:「!」


(會崩、既のところでかわし、再度輝に矢を放つ)


輝:「くっ!」


(輝、よける)





(しばらくの間)




(月神、時計を見る)


月神:(二人とも、大丈夫かしら。無事に警察に着いたかしら・・・。)



會崩:「お邪魔しますよっ、と。」

月神:「!あなたは!

っ!!!(息を飲む)」

會崩:「あぁ、コイツですか?

なんか警察に行こうとしてたんでね、殺しましたよ。」

月神:「・・・っ、輝・・・。」

會崩:「でももう一人の女を逃がしましてね。あれはもう、警察に行ってると思います。良かったですね、思い通りになって。」

月神:「・・・うっ、あぁぁあぁ、輝・・・。」

會崩:「時間がないんですよ、神子様。

私は、お金が必要なんです。娘が病気でね。治療費を稼ごうと足掻いていたら、偶然この村に辿り着いた。

大事な娘なんですよ。真理花っていうんです、可愛くてね。将来はパパのお嫁さんになる、なんて言うんですよ。可愛いでしょ?

娘を助ける為には、葬光花の研究を成功させなくてはならない。葬光花の研究が成功すれば、治療費なんて軽く稼げるでしょう!!

・・・だけど、まもなく警察がやってくる。私は捕まるでしょう。でもこの研究を誰の手にも渡したくはない。もう八方塞がりです。」

月神:「あぁぁぁぁあぁぁ・・・。」

會崩:「この花を他の奴には渡したくない。でももう研究ができないなら、いっそ、燃やしてしまおう、と思っています。捕まってしまったら、娘を助けることすら出来ないしね。妻と娘に迷惑をかけるくらいなら、私は灰になって消えますよ。」

月神:「・・・狂ってる・・・。」

會崩:「は?」

月神:「あなたは狂ってる!」

會崩:「・・・そうかもしれませんね。この花に魅入られた時から・・・。

可愛い娘のために、泥を啜ってでも金を作ろうと思った。だが、私には何も無かった。金も名誉も実力も!今までの私の努力なんて、なんにもならない!金がなければ娘は救えない!!

だが運命は私に光を与えた。葬光花という光を。これは金の成る木だ!・・・いや花か・・・ははっ!」

月神:「娘さんのためだとしても、誰かを傷つけていい理由にはならない!」

會崩:「わかってますよ!そんなこと!」

月神:「・・・っ。」

會崩:「わかって・・・いるんです・・・。」

月神:「か、會崩さん・・・?」

會崩:「だから精算するんです。すべてを。」

月神:「・・・、あなたは・・・、何を・・・?」

會崩:「もう村には火を放ってます。全て燃えるでしょう。あなたも、私も。」

月神:「・・・え!?」

會崩:「だから、時間が無いと言ったじゃありませんか。」

月神:「・・・な、なんてことを!!み、皆を逃がさなくちゃ!!」

會崩:「もう遅いですよ。村を囲むように火を放ちました。誰も逃げられない。」

月神:「あぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」

會崩:「こんなはずじゃなかったのに。あなたが協力してくれなかったからですよ。」

月神:「・・・私の・・・せい?」

會崩:「そうですね。あなたのせいです。」

月神:「輝が死んだのも・・・?」

會崩:「そうですね。」

月神:「あ、あぁ、私・・・そんなつもりじゃ・・・。」

會崩:「あーあ、あなたが巻き込まなきゃ、こんな事にはならなかったのに。」

月神:「あ・・・、あぁ、輝・・・。ご、ごめんなさい・・・うぅっ。」

輝:「・・・ごふっ・・・。」

月神:「!輝!」

會崩:「おや?しぶとい。生きてましたか。」

輝:「・・・せ、月神・・・。」

月神:「輝!輝!!」

輝:「・・・お、お前の、・・・お前のせいな訳・・・あるかよ・・・。」

月神:「あ、ぁ、今、手当を・・・!」

輝:「・・・いや、・・・いい。」

月神:「でも!すぐだから!」

輝:「話、・・・聞け。」

月神:「でも!」

輝:「・・・俺は、たぶんもう・・・。

だけど、・・・お前の・・・せいじゃ・・・ない。悪いのは・・・全部・・・あいつ、だから・・・。・・・自分を・・・せ・・・める・・・な・・・。」


(會崩、輝の心臓に矢を放つ)


會崩:「・・・。」

輝:「ぐっ・・・。」

月神:「輝!いやぁ!いやーーー!!」

會崩:「しつこい男は嫌われますよ。

さぁ、神子様。この男は死にました。村人もどんどん焼け死んでいます。

さぁ!踊ってくださいよ!私に葬光花が光り輝くところを見せてください!これが最期なんだ!」

月神:「・・・・・・・・・。」

會崩:「ほら、どうしたんです?最期なんですよ?」

月神:「・・・あ・・・・・・。」

會崩:「ほらほら、葬送の舞で送ってあげないと!」

月神:「・・・・・・・・・・・・。」

會崩:「さぁ!いつまでも座り込んでいないで!」




(月神、立ち上がる)


月神:「・・・この儀式の間には、神具がたくさん用意されています。」

會崩:「・・・は?」

月神:「・・・こんな事に使うなんて、思ってなかった。」

會崩:「何をです?」


(月神、短刀で會崩を刺す)


會崩:「っ!・・・ぐぅ・・・。」

月神:「私は神に使える身。怒りに身を任せ、復讐に走るなど、愚行の極み。」

會崩:「・・・な、何を・・・。」

月神:「それでも・・・。分かっていても・・・。あなただけは許さない!!」

會崩:「っ!や、やめろっ!」


(月神、泣きながら會崩を何度も刺す)


月神:「っ!・・・!!・・・ううっ!!」

會崩:「ぐっ、・・・まり、か・・・、・・・かはっ・・・。」



(月神、社の村を見渡せる所まで出てくる)

(村は見渡す限り火の海)

(そこかしこで、葬光花が淡い光を放っている)



月神:「もう、皆燃えてしまった・・・。もう・・・何もない・・・。

輝・・・華・・・、ごめん・・・、ごめんね・・・。

ううっ・・・、ぅうぁぁぁぁぁぁぁぁあ・・・。」


(血に濡れた短刀を持ちながら息を整える)


月神:「・・・最期・・・、みんな・・・安らかに・・・。」


(静かに葬送の舞を踊る)




(少しの間)




(華、警察と共に戻ってくる)


華:「はぁっ・・・はぁっ・・・!こっちです!」


華:「な、なんで村が・・・!

あ・・・、あ・・・、輝ーーー!!月神ーーーー!!」



華:「(M)葬光花が輝いている。燃え盛る火の中で、まるで皆が手を振ってくれているかのように、風に揺れていた。

火は風に煽られ、勢いは増し、村には近づけない。

私はただ、呆然と見ているだけしかできなかった。

きっと、この火の中で、月神は葬送の舞を踊っているんだろう。葬光花の輝きがそれを物語っている。

きっと、最期まで、皆の事を想って・・・。」




(しばらくの間)




月神:「(語り)葬光花(そうこうか)が一輪咲くと、一人が旅立つ。その光に導かれて、上へ上へと昇っていく。一人に一輪。その光が暗闇を照らし、その者が向かう道を示すだろう。思うがままに進むが良い。そこがそなたのいるべき場所なのだから。そなたの安寧の地へ導いてくれるだろう。

そなたの光が潰えるまで、神の身元へ辿り着くまで、我々神子が手助けをしよう。そなたの旅の無事を祈り、見守ろう。どうかご無事で。どうかどうか安らかに。」



END