【空色の店〜コルウォクス〜】


困ったり悩んだりしている時にだけ、あなたの前に現れる空色の店。



【ご注意】

・空とヒメルは性別不問ですが、剛と莉子は変更不可です。

・キャスト様の性別は問いません。

・アドリブは世界観を壊さない程度でお願いします。

・一人称、語尾などの変更はOKです。



《登場人物》

①空(そら)

空色の店の店主。

性別不問


②ヒメル

空と一緒にいるネコ。

性別不問


③剛(つよし)(男)

莉子の夫。


④莉子(りこ)(女)

余命3ヶ月と宣告された女性。





-------❁ ❁ ❁-------ここから本編-------❁ ❁ ❁-------




ヒメル:「(N)あなたが住み慣れている街に、ふと、見覚えのない路地があったら・・・。

心のままに覗いて見てください。

きっとそこには、あなたが望んでいるものがある・・・かもしれません。」




莉子:「あの木の葉の最後の一枚が落ちたら、私は死ぬのね・・・なんて(笑)」

剛:「・・・。」

莉子:「それっぽいでしょ?儚げで、私にぴったり。」

剛:「・・・。」

莉子:「・・・なんとか言ってよ。」

剛:「・・・じょ・・・。」

莉子:「・・・ん?」

剛:「冗談でもそんなこと言うな。」

莉子:「・・・。

・・・ごめん。」




莉子:「(M)最近ネットでまことしやかに流れている、ある噂。

『困ったり悩んだりしている時にだけ、あなたの前に現れる空色の店。見つけたら願い事が叶うらしい。』

そんなお店が本当にあったとしても、もう私には行く術はないのだけれど。

この病院に囚われてしまった私には。

でももし本当に行けたのなら、不器用なあの人が、幸せになれるように祈るのに。

強く生きていってくれるように、願うのに。」




剛:「(M)莉子が突然倒れてから、まだ二週間。

あっという間に入院が決まり、瞬く間に検査が行われ、昨日、医者に言われた。

『末期のガンで、手の施しようがありません。もって後、三ヶ月でしょう。』

余命宣告って、本当にそう言うんだ・・・と、その言葉は、他人事のように頭をすり抜ける。

隣で聞いていた彼女は、表情を変えることもなく、静かに話を聞いていた。」




莉子:「・・・末期だって。」

剛:「・・・うん。」

莉子:「・・・手の施しようがないんだって。」

剛:「・・・うん。」

莉子:「・・・ごめんね。」

剛:「・・・なんで謝るんだよ。」

莉子:「だって・・・、辛そうな顔してるから。」

剛:「・・・そりゃそうだろ・・・。」

莉子:「びっくりだね〜。ちょっと調子悪いなって思って病院来てみたら、まさかの急展開。」

剛:「・・・ちょっとじゃなかっただろ・・・。」

莉子:「え?」

剛:「莉子、ずっと我慢してたんだろ。」

莉子:「・・・えっと・・・。」

剛:「・・・。」

莉子:「・・・。」

剛:「気づいてあげられなくてごめん。」

莉子:「なんで剛が謝るのよ。剛は悪くないでしょ?」

剛:「莉子だって悪くない。」

莉子:「・・・そうだね。」

剛:「・・・そうだよ。」



(少しの間)



莉子:「・・・空色のお店・・・。」

剛:「え?」

莉子:「空色のお店っていうのがあるんだって。

困ったり悩んだりしている時にだけ現れる、不思議なお店なんだって。見つけたら願い事が叶うんだってよ?」

剛:「願い事が叶うって・・・何その胡散臭い話。」

莉子:「ははっ!そう言うと思った。

でも・・・、本当にあったなら・・・。」

剛:「・・・本当にあったら、莉子の病気を治してくださいってお願いするよ。」

莉子:「ふふっ。ありがと!

・・・本当にあったらいいのにね。」






(しばらくの間)





ヒメル:「ねぇ、空〜。だんだん寒くなってきたね。」

空:「そうだね。」

ヒメル:「こういう時はさ、暖かい飲み物でも飲みたいね!」

空:「そうだね。

ヒメルは何か飲みたい物はある?」

ヒメル:「う〜ん、ココアも捨て難いし、ミルクティーも美味しいよね。でもこの前飲んだアイリッシュコーヒーも美味しかったしなぁ!迷っちゃうね!」

空:「うーん、そうだなぁ。」

ヒメル:「でもさ、最近甘い飲み物ばかりだったから、ちょっとスッキリした物でもいいなぁ。」

空:「あぁ、そうだ。そういえばこの間、おいしい緑茶を手に入れたんだった。」

ヒメル:「えー、緑茶ぁ?苦くて苦手なんだよね・・・。」

空:「コーヒーは平気なのに、緑茶はダメなの?」

ヒメル:「だってなんか、舌が、んぎぇぇぇってならない?ぎゅぉぉぉってさ。」

空:「んー、ヒメルは渋みが苦手なのかな?」

ヒメル:「あ、そうそう、渋み!渋みが嫌なんだぁ!」

空:「じゃあ取っておきの緑茶を飲ませてあげよう。」

ヒメル:「え?取っておき?」

空:「うん、見ててごらん。

まずはおいしい緑茶の茶葉をティーポットに入れて・・・。」

ヒメル:「ティーポット?急須じゃなくて?」

空:「そうだよ。そして、そこにミントを入れる。」

ヒメル:「ミント?」

空:「そう。そしてそこにお湯を注ぐと・・・。」

ヒメル:「・・・(匂いを嗅ぐ)わぁ♪だんだん爽やかな匂いになってきた!」

空:「グリーンミントティーだよ。ミントが渋さを爽やかな味に変えてくれるんだ。」

ヒメル:「わぁ♪これなら飲めそう!おいしそう!」

空:「じゃあ、お茶にしようか。」

ヒメル:「うん!」




ヒメル:「あ・・・。」

空:「あ・・・。」

ヒメル:「誰か来たね。」

空:「そうだね。」

ヒメル:「お茶の時間なのにぃ!」

空:「せっかくだから、お客様にもおすそ分けしよう。」

ヒメル:「そうだね!一緒に飲めばいいんだ!

じゃあ、私お迎え行ってくるね!」

空:「あぁ、頼んだよ。」

ヒメル:「まっかせて!」





(しばらくの間)





剛:(莉子があんなこと言うから、あり得ないって思っているのに、思わず探してしまうじゃないか・・・。)


剛:「(M)会社に行く時、病院に行く時、通い慣れた道で、ありもしない路地を探す。

万が一、億が一でも、もし、空色の店が現れてくれたら。

そんなありもしない幻想に頼っていないと、前に進めない。」



剛:「(M)莉子が待つ病院に行くのが怖かった。

莉子が、日々弱っていくのが、目に見えてわかったからだ。

病室に着くと、いつも『おかえり』と笑顔で迎えてくれる莉子。

その笑顔が消えてしまう日が、刻一刻と近づいているのが、医者じゃない俺にもはっきり分かる。

俺も莉子も、それでもできる限り笑顔でいようと、二人で約束していた。

それが俺には・・・・・・辛かった。」





(しばらくの間)





(莉子、少し苦しそうに)


莉子:「・・・おかえり。」

剛:「ただいま。

無理して起きなくてもいいよ。」

莉子:「・・・ううん、起きたいの。剛の顔を、正面から見たいから。」

剛:「・・・じゃあ、ベッドを起こすよ。レバー回すから、ちょっと待って。」

莉子:「・・・ありがとう。」


(剛、ベッドを起こす。)


剛:「調子はどう?」

莉子:「・・・まあまあかな。

・・・ご飯食べれなかったから、点滴増やされちゃった。」

剛:「そっか。でもそれが莉子の栄養になるんだから、頑張らないとな。」

莉子:「・・・うん。ありがたいね。

・・・ご飯食べられなくても、こうやって、生きていられる。

・・・剛と話していられる。

・・・頑張らないとね。」

剛:「うん、一緒に頑張ろう。支えられるように、俺も頑張るから。」

莉子:「・・・うん、ありがとう。」



(少しの間)



莉子:「・・・ねぇ、剛。」

剛:「ん?」

莉子:「・・・剛に渡しておきたい物があるの。」

剛:「何?」

莉子:「・・・これ。」


(莉子、剛に紙切れを渡す)


剛:「なんだ、これ?なんにも書いてない白い紙切れ?」

莉子:「・・・それ、空にかざしてみて。」

剛:「なんで?」

莉子:「・・・いいから。」

剛:「あ、ああ・・・。」


(剛、窓辺に近づいて空にかざす)


剛:「え!?」


剛:「(M)その紙切れは、空にかざすと、まさに空色になった。

さっきまでは白一色だった紙の表面に、まるで空が映っているかのようだ。

しかも不思議な事に、かざした先の空と、寸分違わず繋がっている。

雲の切れ端まで繋がっていて、確かに手に持っている感触があるのに、そこには何もないようだった。」


剛:「な、なんだこれ・・・。どうなっているんだ?」


剛:「(M)俺はその紙を、ひっくり返したり、上下に振ってみたりしたが、空は相変わらず繋がっていた。」


莉子:「・・・私ね、ちょっと前に、空色のお店を見つけたの。」

剛:「へ?」

莉子:「・・・前に話してたでしょ?・・・なんでも願いを叶えてくれる、不思議なお店があるって。」

剛:「あぁ、覚えてる。だけどそれは、都市伝説みたいなものだろ?」

莉子:「・・・本当にあったのよ。・・・その紙が、その証拠。」

剛:「確かに、この紙は・・・、こんな紙は普通じゃありえないけど・・・。」

莉子:「・・・そこにはね、・・・かわいいネコが案内してくれたのよ。」

剛:「ネコ?」

莉子:「・・・えぇ。きっと・・・あなたも会える。・・・その紙は、空色のお店への、・・・招待状なの。・・・っ!(咳き込む)」

剛:「っ!おい!大丈夫か!?」

莉子:「・・・だ、大丈夫。・・・ごめんね。」

剛:「無理するな。今、ベッド倒すから。ちゃんと寝てろよ。」

莉子:「・・・うん。・・・でもこれだけ・・・、ちゃんと伝えたくて・・・。」

剛:「・・・何?」

莉子:「・・・空色のお店は、・・・なんでも叶えられるわけじゃないの・・・。・・・でも、そこにいるのは、・・・とっても優しい人達よ。」

剛:「わかった、わかったから。ほら、横になれって。」

莉子:「・・・ありがとう。・・・剛は優しいから、・・・私を大切にしてくれるから・・・。

・・・お店の人達を、・・・責めちゃダメだよ・・・。」

剛:「何言ってんだよ。」

莉子:「・・・お店に行ったら、・・・空さんの話を・・・ちゃんと聞いてね・・・。

っ!うううっ・・・!(苦しみ出す)」

剛:「っ!!莉子!?」

莉子:「うううっ、うう・・・っ!」

剛:「莉子!!」


(剛、ナースコールをする)


剛:「あの!莉子が!莉子が苦しみ出して!来てください!すぐ!お願いします!!」






(しばらくの間)






剛:「(M)その日、莉子の体はガンに蝕まれ、痛みに耐えられなくなった。

薬を投与された莉子は、もう、ほとんど意識がない。意識はないが、呼吸はしている。生きている。」



剛:「(M)俺は手元にある、あの紙切れを見ていた。

これは空色の店への招待状だと、莉子は言っていた。

この一枚の紙切れが、一筋の希望だ。」





ヒメル:「にゃ〜。」


剛:「(M)気がつくと、足元にネコが座っていた。」


ヒメル:「にゃ〜。」


剛:「(M)そのネコは、俺を誘う(いざなう)かのように、俺の方を振り返りながら、前を歩き始めた。」


剛:(ネコ?・・・まさか。)


剛:「おまえ、まさか、空色の店の・・・」

ヒメル:「(小声)ついてきて!」

剛:「え!?」

ヒメル:「(小声)はやく!」

剛:「あ!おい!待ってくれ!」




(少しの間)




剛:「(M)辿り着いたそこは、病院の敷地内の片隅だった。

細い獣道のようなところを入っていくと、奥には・・・空の中に扉が浮いているようだった。

いや、浮いているのではない。壁が空と同化していて、浮いているように見えるのだ。

そう、この紙切れと同じように。」


ヒメル:「こっちだよ!」

剛:「あ、あぁ・・・。」


剛:「(M)ネコが扉に入っていく。

俺は紙切れを握りしめながら、ついて行った。」





(少しの間)




空:「いらっしゃいませ。」

剛:「あ、どうも・・・。」

空:「剛さん・・・ですね?」

剛:「あ、はい。」

空:「その紙切れを持っているという事は、莉子さんからお話は聞いていらっしゃいますか?」

剛:「え・・・あ、はい。空色の店を、見つけたって。」

ヒメル:「そうだよ!莉子さんは、三ヶ月くらい前に、ここに来たんだよ!」

空:「僕は空と言います。」

ヒメル:「私はヒメル!よろしくね!」

剛:「あ、はい、どうも。

・・・あの、莉子がここに来たって言うのは聞きました。ですが、他の事は何も・・・。」

空:「・・・そうですか。それでは、その時の事をお話させて頂きます。

おいしいグリーンミントティーでも飲みながら、ね。」

ヒメル:「わぁい♪とっても爽やかで美味しいんだよ!」

剛:「はぁ・・・、いただきます。」






(回想)






空:「いらっしゃいませ。」

莉子:「あ、こんにちは。あの今、ここにネコが・・・。」

空:「ヒメルのことですね?あちらのソファにおりますよ。」

ヒメル:「にゃ〜。」

莉子:「わぁ、かわいい。

病院内の敷地にネコがいるのが珍しくて、追いかけてきちゃいました。」

空:「そうですか。ヒメルは大人しいネコですから、存分にかわいがって上げてくださいね。」

莉子:「ふふふっ♪本当にかわいい♪

・・・・・・あの!このお店の外観を見たんですけど、・・・もしかして、ここって、空色のお店っていう、願い事を叶えてくれるお店だったり・・・しませんか?」

ヒメル:「うん!ここは空色のお店だよ!みんなのお悩みを解決してるんだよ!」

莉子:「っ!?・・・え、・・・え?」

ヒメル:「私はヒメル!よろしくね♪」

莉子:「え!?あ、はい、よろしく・・・」

空:「ビックリさせてしまってすみません。ヒメルはしゃべるネコなのです。」

莉子:「・・・は、はい・・・。そ、そうなんですね。」

空:「僕は空です。

ちょうど、おいしいグリーンミントティーを入れたところなんですよ。

一緒に飲みながら、お悩みを聞かせていただけませんか?」

ヒメル:「一緒に解決出来る方法を考えよう!」

莉子:「は、はい、いただきます。」





(少しの間)





莉子:「私は莉子と言います。

ここの病院に入院していて、・・・その、末期のガンなんです。余命三ヶ月と診断されています。」

空:「そうなんですね。それはお辛いでしょう・・・。」

莉子:「・・・そうですね。突然の余命宣告だったので、辛いと言うよりは、びっくりしてしまって。」

ヒメル:「そりゃそうだよね。体辛くない?辛いようだったら、ソファに横になる?フカフカだよ?私のお気に入りのソファなの!」

莉子:「ふふっ。大丈夫だよ。ありがとう、優しいね。」

ヒメル:「へへっ♪」

空:「・・・それでは、お願いというのは、・・・病気を治してほしいとか・・・そういう・・・。」

莉子:「・・・治せるんですか?」

空:「・・・・・・。」

ヒメル:「・・・治せるの?空?」

空:「・・・病気を治すというのは、正直申しますと、難しいです。」

莉子:「・・・そうですよね。」

空:「はい。私のコレクション達を、間違った使い方をすれば、ある意味叶えられるかもしれませんが・・・。」

ヒメル:「間違った使い方?」

空:「うん、そうだよ。

例えば、対象の時間を止めるコレクションがあります。それは本来、遺跡やその人の大切な物の時間を止め、風化を防ぐものです。」

ヒメル:「へぇー!それを莉子さんに使ったら、病気の進行も止まる?」

空:「そうだね。

ただ、莉子さん自身の時間も止まります。」

莉子:「私自身の・・・?」

空:「そうです。病気が進行しない代わりに、莉子さんは歳も取らず、そのまま生き続けます。」

ヒメル:「死なないで生き続けるの?」

空:「・・・生き続けると言うよりは・・・、ただ生きているという方が正しいかもしれません。」

莉子:「ただ生きている?」

空:「はい。動けもせず、話すことも出来ずに、ただ生きている、という事です。」

ヒメル:「それじゃ意味ないじゃん!」

空:「・・・そうだね。だから間違った使い方ということなんだよ。本来の、用法・用量を守った使い方じゃないから、結果に歪みが生まれる。」

莉子:「・・・。」

空:「それは莉子さんも、望んでいる結果ではないでしょう。」

莉子:「・・・時間を再び動かすことは出来るんですか?」

空:「できません。対象の時は、ずっと止まったままです。」

莉子:「・・・そうですか。」

ヒメル:「んー・・・、他に出来る事はないの?

空、いっぱい不思議な物持ってるじゃん!他に、何とか出来る物!」

空:「・・・残念ながら・・・、今現在、僕の持っている物で、莉子さんの病気を治せるものはありません。」

莉子:「・・・そうですよね。簡単に病気を治すなんて・・・。そんな物があったら、病気で死ぬ人なんて、いなくなってますよね。」

空:「・・・すみません、お力になれず・・・。」



(少しの間)



莉子:「分かりました。もともとダメ元だったんです。困らせてしまって、すみません。」

ヒメル:「え・・・、でも・・・。」

莉子:「もしここに来れたら・・・、病気が直せなかったら・・・、お願いしたい事があったんです。

聞いていただけますか?」

空:「もちろんです。」

ヒメル:「うん!なんでも言ってよ!なんでも聞くよ!」

莉子:「ふふっ。ありがとう。」

空:「お茶が冷めてしまいましたね。

入れ直しますから、少しお待ちください。」

ヒメル:「わぁ♪私にも!たっぷり入れてね!!」

莉子:「ありがとうございます。」






(現在)





剛:「(拳を震わせながら)・・・そうですか。

こちらでも、・・・治せないんですね。

ここが、最後の希望の光だったのに・・・。

ここならと・・・、思っていたのに・・・。」

空:「・・・すみません。力不足で。」

剛:「いや、こちらこそ、申し訳ない。そうですよね。莉子が言っていた通り、簡単に病気を治せたら、病気で死ぬ人なんていないですよね。

・・・あいつは、莉子は、何をお願いしたんですか?続きを聞かせてください。」

空:「・・・はい。お話致します。」






(回想)






莉子:「私、ずっと考えていたんです。私がいなくなっても、剛が前を向いて生きていくには、どうしたらいいんだろうって。」

空:「・・・。」

莉子:「難しいですよね。

最初は、私のことを忘れてくれたらって思ったんですけど・・・。」

ヒメル:「そんなのダメ!そんなの!」

莉子:「ふふふ。本当に優しいね、あなたは。(ヒメルをなでる)

私、わがままなんです。剛には前を向いて生きていってほしい。・・・でも、私の事、忘れてほしくないんです。

剛には幸せになってほしい・・・。でも、忘れられてしまったら、二人の大切な思い出も何もかも、なかったことになる。剛の中に、私はいなくなる・・・。そう思ったら、もう・・・絶望しかなくなってしまって・・・。

・・・そんな事考えていたら、もうどうしたらいいのか分からなくなってしまったんです・・・。」

空:「そうですよね。難しい事ですよね・・・。」

ヒメル:「ええと・・・、限られた時間だけど、二人で一緒に、幸せを感じられる時間を過ごせたらいいんじゃないの?ほら、こうして、おいしいグリーンミントティーでも飲んで、ゆっくりさ!」

莉子:「そうだね。

・・・それで考えたんですけど、私がもし意識がなくなっても、剛とお話出来るように、剛とこれからのことをゆっくり話せるように、・・・そんな事が出来るようには・・・出来ますか?」

空:「はい!出来ますよ!それならば、お力になれると思います!」

ヒメル:「やったぁ!!」

莉子:「ふふふ。本当に皆さん優しいですね。ありがとうございます。」

空:「・・・うーん、そうだな。まず、莉子さんには、こちらの紙をお渡し致します。(紙を差し出す)」

莉子:「・・・これは・・・白い紙ですか?」

空:「これは特殊な紙で、持っている人やその人の場所を、特定できるのです。

これを、剛さんにお渡し頂けますか?」

莉子:「剛に?」

空:「はい。

商品は、剛さんにお渡しした方がいいと思うので、お渡し頂ければ、ヒメルが剛さんをお迎えにあがります。」

ヒメル:「まっかせて!」

莉子:「わかりました。・・・でも。」

空:「でも?」

莉子:「剛はすごく優しいんです。優しいから、私の病気を治したいと、ずっと思ってくれています。私が弱って行っているのをみて、自分が傷ついているんです。

そんな人だから・・・。

もしかしたら、皆さんにご迷惑をおかけするかもしれません。」

ヒメル:「どういう事?」

莉子:「その・・・、ケンカ腰になってしまうかも・・・。」

空:「あぁ、そういう事ですか。

それなら大丈夫ですよ。」

ヒメル:「大丈夫なの?」

空:「剛さんの、莉子さんへの想いだと思って、受け入れます。」

莉子:「え!?あの!それは・・・。」

ヒメル:「殴られたら、手当ては私がしてあげるね!」

空:「頼んだよ、ヒメル。」

ヒメル:「まっかせて!お迎えも手当ても、ドンと来いよ!」

莉子:「・・・ふふっ。ありがとうございます。」






(現在)






空:「・・・それで、こちらからお迎えに上がった次第です。」

剛:「・・・そうなんですね。

莉子がそんなことを。」

空:「・・・はい。」

剛:「あいつ、この紙切れをくれた時、言ってたんです。

『お店の人達を責めちゃダメだよ』って。

たぶん分かってたんだ。俺がその話を聞いたら、冷静になれずに、何とかしろって突っかかるだろうって。

・・・あいつの言葉のおかげで、俺は今、冷静に話を聞いていられる。」

空:「優しい方ですね。」

ヒメル:「莉子さん、ずっと剛さんの心配ばかりしてたもん。

剛さんが、前を向いて生きていけるように、自分には何が出来るかな、って言ってた。」

剛:「・・・そうですか。(涙ぐむ)」


(少しの間)


剛:「・・・莉子と話せるんですか?」

空:「はい。」

剛:「意識がないのに?」

ヒメル:「そうだよ!」

剛:「・・・どうやって?」


(空、戸棚から何かを取り出す)


空:「こちらをお持ちください。」

剛:「これは・・・イヤホン?」

空:「はい、イヤホンです。

これを莉子さんに着けてあげてください。

(もう一個のイヤホンを指して)もう一つの方は剛さん用です。お二人が着けている時にだけ、お互いの声が聞こえます。」

剛:「俺たちが着けている時にだけ?」

空:「そうです。他の人が着けても、声は聞こえませんのでご安心ください。」

ヒメル:「これでずっと話せるね!」

空:「これは、コルウォクスと言って、互いに想いあっている者同士だけが、お互いの声を聞くことの出来る物です。気持ちの波長が合っているからこそ、声が届けられるんです。」

ヒメル:「わぁ!ステキ!莉子さんと剛さんにピッタリの物だね!」

剛:「着けるだけで・・・。」

空:「これは・・・、差し上げます。どうか、最期の最期まで、莉子さんに寄り添ってあげてください。

僕にはこのくらいしか・・・できませんが・・・。(涙ぐむ)」

剛:「・・・はい。あ・・・あり、がとう・・・ございます。(静かに泣く)

十分です。・・・これでまた、・・・莉子と時間を共有できる・・・。」

ヒメル:「・・・お互いを想い合ってる二人が、っぐす、少しでも幸せに・・・、なれるように・・・ううっ、応援してる、から、ね・・・。」

剛:「っ、・・・あぁ・・・、あり、がとう・・・。」





剛:「(M)コルウォクスを手に取って顔を上げると、そこには店も何もなく、元の病院の片隅だった。

夢でも見ていたのかと、一瞬戸惑う。

だが、俺の手には、しっかりとコルウォクスが握られていた。

手の中の感触を確かめながら、俺は莉子の病室へ走った。」





(少しの間)





莉子:『剛?』

剛:『あぁ、俺だよ、莉子。』

莉子:『空色のお店に、行ってくれたのね。』

剛:『あぁ。お前が忠告してくれていたから、あの人達に掴みかからなくて済んだよ。

・・・ちょっと危なかったけど。』

莉子:『ふふっ。やっぱり、言っておいてよかった。』

剛:『ありがとな。』

莉子:『あの人達、私の病気が治せないって事、本当に辛そうに話すのよ。まるで自分が悪いかのように話すの。空さんやヒメルさんのせいではないのにね。

本当に優しい人達だった。』

剛:『そうだな。俺が尋ねた時も、「僕にはこのくらいしかできない」って、泣いてたよ。

俺にとっては、莉子と話せるだけで、幸せなのにな。』

莉子:『・・・ふふっ♪幸せ?』

剛:『あぁ、幸せだよ。・・・もう、話も出来ないまま、お前が逝くのを見守るしかないと思っていたから。』

莉子:『・・・私も幸せ。最期の最期まで、剛とこうしてお話できるなんて。・・・でも・・・。』

剛:『?どうした?』

莉子:『・・・私、あなたを縛りつけてない?』

剛:『・・・。』

莉子:『それが・・・、心配なのよ。あなたの未来を、邪魔してないかって。』

剛:『・・・縛りつけてくれよ。』

莉子:『・・・え?』

剛:『お前が逝くまでは、縛りつけてくれていいんだ。』

莉子:『でもそれじゃ!・・・剛は幸せになれないよ・・・。

それが心配で、空さんにこのお願いをするかどうか、ずっと迷ってたの・・・。

私はあなたに幸せになってほしい。』

剛:『俺は幸せだ。莉子と出会えて、結婚して、ずっと一緒にいれて、幸せだよ。

空さんとヒメルさんのおかげで、こうして莉子に最期まで寄り添うことが出来る。

・・・莉子は?幸せ?』

莉子:『・・・うん。幸せ。・・・でも・・・。』

剛:『俺だって、莉子がいなくなったら、どうすればいいのか分からない。どうなってしまうのかも・・・。

でも、これだけは約束する。自暴自棄になって、幸せを諦めるようなことは、絶対にしないよ。』

莉子:『・・・本当?』

剛:『うん。約束する。』

莉子:『・・・よかった。』

剛:『だから、今だけは、莉子との時間を、幸せな時間を味わわせてくれ。』

莉子:『・・・うん!

・・・・・・・・・剛。』

剛:『うん?』

莉子:『ありがとう。』

剛:『それは俺のセリフ。

空色のお店を見つけてくれてありがとう。

俺といつも一緒にいてくれてありがとう。

いっぱいの幸せを・・・ありがとな。』

莉子:『剛・・・。愛してるよ・・・。』

剛:『あぁ・・・、俺も、愛してる。』






(しばらくの間)






ヒメル:「空〜。」

空:「なんだい?ヒメル。」

ヒメル:「あれから、莉子さんと剛さん、どうなったかなぁ・・・。」

空:「・・・。」

ヒメル:「あれ?また忘れてる?もぉ〜、空は!しかた(ないんだからぁ〜)。」

空:「(被せて)覚えてるよ。

あんなに自分が無力だと感じたことは無かったからね。」

ヒメル:「・・・空・・・。」

空:「人を生き返らせる事や、病気を無かったことにできる道具なんて、そんな物はないんだ。

唯一あるとすれば・・・。」

ヒメル:「あるとすれば?」

空:「デセオエストレジャくらいだ。」

ヒメル:「あ・・・・・・。京子ちゃんに渡した・・・。」

空:「あれは強力で、絶対的な力を持ってる。だけど、前にも言ったけど、あれは本当に稀少なもので、そう簡単には手に入らない。」

ヒメル:「あれがあったら、世界中の人の病気が治せるのに・・・。」

空:「でも、それをしてしまったら、たぶん、どこかに歪みが生じるよ。

だからこそ、人の生き死には簡単に変えられないんだ。

・・・大切な人がいなくなるのは、本当に辛いことだけどね。」

ヒメル:「・・・そっかぁ。そうだよね。」

空:「今回は、改めて色々考えさせられたよ。」

ヒメル:「でも!莉子さんと剛さんは幸せだったかもしれないよ!

空の力で、今どうしてるか、見てみようよ!」

空:「・・・うーん、それはやめておこう・・・。」

ヒメル:「・・・どうして?」

空:「愛し合っている者同士の時間を覗き見するのは、ヤボってもんだよ。」

ヒメル:「・・・そっか。そうだね!」


(少しの間)


ヒメル:「でも、空から愛なんて言葉が出てくるとは思わなかった!」

空:「僕だって、愛が尊いものだってことは分かってるさ。」

ヒメル:「ふぅ〜ん。そっかぁ♪」

空:「・・・何?」

ヒメル:「私!空のこと、大好きだよ!不器用なとこも、優しいところも、全部大好き!」

空:「僕もヒメルが大好きだよ。」

ヒメル:「へへへ〜♪」





空:「さっ!そろそろお茶の時間だね!」

ヒメル:「わぁい♪」

空:「今日は美味しい芋羊羹もあるんだ。緑茶を手に入れた時に、一緒に食べようと思って買っておいたんだよ。」

ヒメル:「うう〜ん、それは緑茶そのままの味で楽しんだ方がいいかな〜?」

空:「そうだね。甘い芋羊羹と渋い緑茶が相まって、とっても美味しいと思うよ。」

ヒメル:「じゃあ、私も緑茶の渋みに挑戦する!」

空:「ははっ。頑張って!」

ヒメル:「うん!」



(少しの間)



空:「(M)大切な人との時間は、それだけで尊い。それ故に、なくしてしまうと分かったら、歪んだ形でも留めようとしてしまう。

歪んだ形で繋ぎ止めるのは悲しいけど・・・。

僕はどうしても求めてしまう。

みんなが幸せになれる結末を。

みんなが笑い合える人生を。

僕自身も・・・、笑えるように。」


END