【空色の店〜カンドゥカルナ〜】


困ったり悩んだりしている時にだけ、あなたの前に現れる空色の店。



〚ご注意〛

・性別不問ですが、翼だけは変更不可です。

・キャスト様の性別は問いません。

・アドリブは、世界観を壊さない程度でお願いします。

・一人称、語尾等の変更はOKです。



‪《登場人物》

①空(そら)

空色の店の店主。

性別不問

※クラスメイト①兼役


②ヒメル

空と一緒にいるネコ。

性別不問

※クラスメイト②兼役


③翼(つばさ)(女性)

恋に悩む中学生。


④杏奈(あんな)(女性)

翼の親友。

※セリフは2つしかありません。上の3役のうち、女性のキャスト様に兼役をして頂ければと思います。


⑤晴人(はると)(男性)

学校の人気者で、女子にもてる。

セリフは3つしかありません。上の3役のうち、男性のキャスト様(女性キャスト様でも可)に兼役をして頂ければと思います。




-------❁ ❁ ❁-----ここから本編-----❁ ❁ ❁-------




ヒメル:「(N)あなたが住み慣れている街に、ふと、見覚えのない路地があったら・・・。

心のままに覗いて見てください。

きっとそこには、あなたが望んでいるものがある・・・かもしれません。」








翼:「(M)最近ネットでまことしやかに流れている、ある噂。

『困ったり悩んだりしている時にだけ、あなたの前に現れる空色のお店。見つけたら願い事が叶うらしい。』

そんなお店が本当にあったらいいのに。そしたら、きっとこの恋も・・・。」


翼:「本当にあるんだったら、私の前に現れて。お願い・・・。どうしたらいいか、分からないの。」




(しばらくの間)




翼:(今日も晴人君と話せなかったなぁ・・・。せっかく隣の席になったのに、なかなか勇気が出なくて・・・。)



翼:「(M)私は今、恋をしている。

サッカー部の晴人君。元気で明るくてクラスの人気者。

地味で、教室の隅っこで女子だけで固まっている様な目立たない私の事も覚えていてくれて、気さくに話しかけてくれるような男の子。

もちろん女子からの人気も絶大で、学年一の美少女、美空さんも好きだって噂。」



翼:(はぁ。せめてもうちょっと可愛かったらなぁ。せめてもうちょっと明るくなれたら・・・。

私なんて、美空さんと比べたら、花と芋虫くらい差があるよ・・・。)




(少しの間)




翼:「(M)学校からの帰り道、いつもの通学路を歩いていると、ふと違和感がして立ち止まる。

毎日通っていて、歩き慣れた道のはずなのに・・・。」



翼:(あれ?こんな所に、道なんてあったかな?

奥に何があるんだろう・・・。)




(少しの間)




(ヒメル、体を起こす)


ヒメル:「・・・空。誰か来るよ。」

空:「・・・そうだね。」

ヒメル:「迎えに行った方がいいかな?」

空:「・・・そうだね。」

ヒメル:「・・・空?聞いてる?」

空:「・・・ん?なんだい?ヒメル。」

ヒメル:「もう!空はいつもそうなんだから!

ヒメル:・・・何してるの?」

空:「今ね、ハイビスカスティーを入れているんだよ。」

ヒメル:「ハイビスカス?あの南国の花?」

空:「そうだよ。お茶にして入れると、少し甘酸っぱい香りがして、綺麗なルビーレッドの色になるんだ。」

ヒメル:「へぇ!わぁ!ほんとだ!すっごくきれい!いい匂い!」

空:「そうだろう?今日はこれに、パインの形をした甘い焼き菓子でお茶にしようと思って。」

ヒメル:「わぁ!かわいい!!本当にパイナップルの形してる〜!」

空:「日本の沖縄のお菓子だよ。」

ヒメル:「わぁい♪楽しみだなぁ!

・・・・・・じゃなくて!!」

空:「どうしたんだい?声を荒らげて。

あ、さてはお腹空いているんだろう?待ってて、今準備(するから)」

ヒメル:「(被せて)お・きゃ・く・さ・ん!!」

空:「え?」

ヒメル:「お客さんだよ!」

空:「・・・・・・あ、本当だ。路地の入口のところでウロウロしてるね。」

ヒメル:「(小声)さっきから言ってるのに、もう・・・」

空:「ん?なんだい?」

ヒメル:「なんでもない!

私、迎えに行ってくるね!」

空:「あぁ、よろしく頼むよ、ヒメル。」

ヒメル:「がってんだい!」




(少しの間)




翼:(・・・なんだろう、ここ・・・。なんだか気になる・・・。でも、こんな人気のない路地に入ったら、危ないかなぁ・・・。)

ヒメル:「にゃ〜。」

翼:「あ、ネコ・・・。」


(ヒメル、足元に擦り寄り、喉を鳴らす)


ヒメル:「ごぉろごぉろ」

翼:「わぁ、かわいい。(なでなで)

君はどこの子?首にリボンしてるし、飼い猫だよね?

あ!」


(ヒメル、路地の奥に駆け出して、ちょっと先で翼の方を振り返る)


ヒメル:「にゃ〜。」

翼:「え?なんか呼ばれてるみたい・・・。」

ヒメル:「にゃ〜。」

翼:「どうしたの?」

ヒメル:「にゃ〜!にゃ〜!」

翼:「絶対私を呼んでるよね?

(少し悩んで)・・・よし!」


(翼、ヒメルに駆け寄る)


翼:「どこに連れていってくれるのかな?」

ヒメル:「にゃー!」




(少しの間)




翼:「(M)路地の奥まで進むと、おそらく突き当たり・・・だと思う。不思議な建物があった。建物で合っているんだろうか。

建物の壁面が、空と融合している・・・。いや、空とおなじ模様で、どこが境目かがよく分からない。

唯一浮き出るようにある、ステンドグラスのはまったドアから、先程の猫が中に入っていく。」


翼:「こ、ここって・・・。噂になってる・・空色の・・・お店?」


ヒメル:「にゃ〜。」


翼:「・・・あ、待ってよ〜!」


(翼、ヒメルの後を追って店に入る)




(少しの間)




空:「いらっしゃいませ。」

翼:「あ、こ、こんにちは!」

空:「どうぞ、中へ。

可愛らしいお客様だね、ヒメル。」

ヒメル:「にゃ〜。」

翼:「あ、さっきのネコ!

ここのお店の子だったんですか?」

空:「そうだよ。ヒメルは僕の友達だよ。

・・・あれ?友達?相棒?家族・・・?うぅ〜ん・・・。一言で言い表すのは、とても難しいなぁ・・・。(考え込む)」

翼:「あ、あの・・・。」

ヒメル:「もう!空は!お客さん放ったらかして、何を考え込んでるのさ!」

翼:「え!?」

ヒメル:「今一番大事なのは、お客さん!お客さん第一!」

空:「あ!あぁ、そうだね。ごめんごめん。ゆっくりしていってね。」

翼:「・・・えっ!?あの・・・えっ?」

空:「どうしたのかな?鳩が豆鉄砲くらったような顔をして。

・・・?鳩が豆鉄砲くらったような顔って、どんななんだろう・・・。僕は見た事ないなぁ・・・。これを考えた人は、(見たことがあるんだろうか・・・。)」

ヒメル:「(被せて)もう!また!!話が逸れるの、空の悪い癖だよ!」

翼:「あ・・・あ・・・ね、ねこ・・・が・・・しゃ、しゃべ・・・?」

ヒメル:「私はヒメル!よろしくね!

そんなに驚かなくても大丈夫!たまたま喋れるネコってだけだから。」

翼:「ふ、普通は喋れないよ・・・?」

ヒメル:「ま、その辺のネコとは比べ物にならないくらい賢いネコだからね♪

こっちは空。このお店の店主だよ。」

空:「・・・うーん。」

翼:「?」

ヒメル:「ほら!空!考え込んでいないで、自己紹介!」

空:「え?あ、あぁ、そうだね。

僕は空。この店の店主です。よろしくね。」

翼:「あ、はい。私は翼と言います。よろしくお願いします・・・。」

空:「せっかく可愛いお客様もいらした事だし、まずはお茶にしよう。ちょうど美味しいハイビスカスティーが入ったところなんだ。」

翼:「ハイビスカス?」

ヒメル:「そうだよ!ルビーレッドが綺麗なお茶だよ!」

空:「味はすっぱめだからね。すっぱい時は、このはちみつを足すといい。君には・・・だいたいスプーン三杯かな。」

翼:「え?そんなに?」

空:「そのくらいでちょうどいいと思うよ。」

ヒメル:「私は?」

空:「ヒメルも三杯くらいかな。もう少し入れてもいいと思うけど。」

ヒメル:「そっかぁ。私が三杯分なんだもん、翼ちゃんは三杯じゃ足りないかもしれないね。」

翼:「そ、そうなの?」

ヒメル:「そうだよ。淑女(男性の場合は紳士)の私が三杯だからね。子供の翼ちゃんはもっと多くてもいいくらいだよ。」

翼:「・・・そ、そうなんだ。」

空:「そうだね、もし飲んでみて足りなかったら、また入れるといいよ。」

翼:「あ、でも私、お金・・・。」

空:「あぁ、お金なんていいんだ。ここは翼ちゃんみたいに悩んでいる人の悩みを聞いて、解決できるように手助けをしている店なんだよ。その為にゆっくりリラックスできるようにお茶を(お出ししているんだ。)」

翼:「(被せて)やっぱり!やっぱり、ここは空色のお店なんですね!」

ヒメル:「あれ?翼ちゃん、この店のこと知ってるの?」

翼:「はい!ネットの噂なんですけど・・・。

困っている時にだけ現れる、空色のお店があるって。そのお店は、訪れた人の願いを、なんでも叶えてくれるって・・・。」

空:「なるほど。翼ちゃんも噂は知っているんだね。

ここは確かに空色の店だよ。でも君が知っている噂とは、ちょっと違うかな。」

翼:「え・・・。」

空:「なんでも願いを叶える訳ではなくて、その人に合った商品をお渡ししているんだ。

だから、じっくり話を聞いて、どんなことに悩んでいるのか、教えてもらう必要がある。」

ヒメル:「そうだよ!間違えて渡すと、とんでもない事になる事もあるからね!」

翼:「と、とんでもない事・・・(生唾を飲み込む)。」

空:「お渡しする商品は、使用方法と使用頻度をきちんとお伝えしてお渡しするから、用法用量を守って使用していただければ、とんでもない事にはならないはずだよ。」

ヒメル:「ハイビスカスティーも、はちみつを入れすぎると飲めたもんじゃないからね!それと同じさ!」

翼:「は、はぁ・・・。」

空:「さぁ、君も、何か悩んでることや苦しいことがあったら言ってごらん。力になれるかもしれないよ。

ハイビスカスティーとパインの焼き菓子でも味わいながら、ゆっくりと、ね。」

翼:「は、はい・・・・・。」




(少しの間)




翼:「私、好きな人がいるんです。」

ヒメル:「へぇ!どんな子どんな子?」

翼:「スポーツ万能で、明るくて、みんなの人気者です!こんな地味な私の事も気にかけてくれて、とっても優しい人なんです。

毎日笑顔で挨拶してくれるんですけど・・・、私、恥ずかしくてなかなか返せなくて・・・。」

ヒメル:「そうなんだぁ!それでそれで?」

翼:「毎日、今日こそは話しかけようって思うんですけど、いざその人を前にすると・・・、心臓がバクバク鳴って、それどころじゃなくて・・・。」

空:「え?大丈夫?心臓が悪いのかい?」

ヒメル:「だぁ!!空は黙ってて!!今いいとこなんだから!」

翼:「ふふっ!そうじゃなくて、その人を見てると、緊張して、恥ずかしくて、・・・好きって気持ちが溢れてきて、ドキドキしちゃうんです。」

空:「あ・・・あぁ、そういう事か!」

ヒメル:「本当に分かってるのかなぁ?」

空:「わ、分かってるさ!僕だって、僕だって・・・。

(呟くように)ドキドキかぁ・・・。運動してる時とは、(多分違うよなぁ・・・。)」

ヒメル:「(被せて)ささ、色恋にアンポンタンな空は放っといて、続きを聞かせて?」

翼:「ふふっ、はい。

それで、挨拶もまともに返せなくて、ボソボソ話してるから、きっと暗い子だって思われてるんだろうなって思ったら、ますます返せなくなって・・・。」

ヒメル:「そっかぁ・・・。」

翼:「噂で、学年一の美少女の子も好きだって聞いて・・・。敵わないから諦めようって思ったんですけど・・・。

でもやっぱり好きで・・・。」

ヒメル:「諦められないんだ?」

翼:「・・・はい。」

ヒメル:「(突然の大声)空!!」

空:「え!?はい!!何!?」

ヒメル:「ぼーっと聞いてないで、何かないの?」

空:「え?だって、ヒメルが黙っててって言った(んじゃないか。)」

ヒメル:「(被せて)もう!気が利かないんだからぁ!この恋を応援したいとは思わないの?」

空:「応援したいとは思ってるよ。でも僕はこういうことに関してはアンポンタンだからさ。(グチグチ)ヒメルが言ったんじゃないか・・・。」

ヒメル:「・・・あれ?空、拗ねてる?」

空:「・・・。」

ヒメル:「拗ねてるの?」

空:「拗ねてないよ。」

ヒメル:「ん〜?」

空:「拗ねてない!

翼ちゃん!」

翼:「は、はい!」

空:「僕は、ヒメルが言った通り、色恋には疎いんだ。だから、どうしたら君の恋が上手くいくのか、君の背中を押してあげられるのか分からない。」

翼:「・・・はい。」

空:「翼ちゃんはどうしてほしい?」

翼:「え?」

空:「どうすれば君を助けられるだろう。教えてくれないかな?」

翼:「は、はい・・・。」

ヒメル:「なんでも思ったことを言っていいんだよ!私達は、翼ちゃんを応援したいの!」

翼:「はい。ありがとうございます。

へへっ、嬉しいです。

好きなのに、諦めなきゃいけないのかなって・・・。叶わないのかなって思ってたので・・・。」

ヒメル:「そんな事ないよ!その男の子の気持ちは分からないけど、恋に一生懸命になって、悪いことなんてないんだから!」

翼:「!

はい!頑張ります!」

ヒメル:「よしっ!よく言った!

さぁ、話を聞かせて?どうしたらもっと頑張れるかな?」

翼:「・・・考えたんですけど、相手の気持ちが少しでも分かったら、頑張れるかなって・・・。」

空:「・・・相手の気持ち?」

翼:「私、好きな人が、私の事どんな風に思ってるのか、全然分からないんです。

あんなに人気者なのに、なんで私なんかに話しかけてくれるのか・・・。

ありえないって分かってても、もしかしたら・・・って気持ちが消えないんです。

だって、あんな笑顔見せられたら・・・。」

ヒメル:「そんなにステキなんだ?」

翼:「・・・はい。」

空:「聞いてみたらいいよ。」

ヒメル:「・・・え?」

空:「その子に、どう思ってるのか、聞いてみたらいいんじゃないかな。」

翼:「そ、そうなんですけど・・・。」

ヒメル:「それが出来ないから悩んでるんだってば。麗しき乙女心なの!」

空:「お、乙女心か・・・。」

ヒメル:「ねぇ、空。相手の気持ちが分かっちゃう道具とか、ないの?」

翼:「もし好きな人の気持ちが分かったら、・・・例えどっちの気持ちだったとしても、前に進めると思うんです。

・・・望みがあっても、・・・・・・なくても・・・。」

空:「うーん・・・。あるにはあるけど・・・。」

ヒメル:「あるの!?」

翼:「本当ですか!?」

空:「でも、これはなかなか危険な代物だから・・・。」

翼:「貸してください!!」

ヒメル:「貸してあげてよ、空!!」

空:「う、うーん・・・。でも、本当に危険な物なんだ。用法・用量を間違ってしまうと、取り返しがつかなくなる。」

ヒメル:「そ、そんなに危険なの?」

空:「ああ。

翼ちゃん。僕と約束できるかい?きちんと用法・用量を守って使う、と。」

翼:「・・・は、はい(ごくり)。」

空:「本当に、約束だよ?」

翼:「は、はい!」

空:「ふぅ・・・。」

ヒメル:「空・・・どんな物なの?」


(空、奥の棚から何かを取り出す)


空:「それは、・・・これだよ。」

ヒメル:「え・・・?これ、真珠?なんかすっごくでっかいけど・・・。」



翼:「(M)空さんが出したそれは、宝石の真珠のように、つやつやとしていて、淡い優しい光を放っていた。でもそれは、片手には収まらないほど大きく、ただの真珠ではないことは明白だった。」



空:「これは、カンドゥカルナ。海の涙という意味だよ。」

翼:「・・・カンドゥ・・カルナ・・・。きれい・・・。」

ヒメル:「真珠みたい〜!」

空:「これを、体内に取り込めば、他人(ひと)の気持ちがわかるようになる。」

ヒメル:「・・・え?それだけ?」

空:「それだけだよ。それだけだからこそ、危険なんだ。簡単に出来るようになってしまうからこそ、取り返しがつかなくなることもあるんだよ。」

ヒメル:「体内に取り込むってことは、砕いてアメみたいに舐めればいいの?」

空:「(大声)だめだよ!」

ヒメル:「わっ!びっくりした!」

空:「それだと効果が強すぎる。」

翼:「じゃ、じゃあ、どうすれば・・・。」

空:「翼ちゃんくらいの体格だったら・・・、うーん、そうだなぁ。五リットルくらいの水に、カンドゥカルナを一分入れて、それを彼が近くにいる時に一口飲むぐらいでいい。」

翼:「そ、そんなに少しでいいんですか?」

空:「彼の気持ちを読むくらいなら、そのくらいでいいと思うよ。十分位は効果が持続すると思うから、その間に彼の気持ちを読むといい。」

翼:「・・・十分。」

ヒメル:「これで彼の気持ちがわかるね!」

翼:「・・・はい。」

空:「?どうしたの?」

翼:「え?あ、なんでもないです!」

ヒメル:「何か不安なこととかあった?ちゃんと言った方がいいよ?」

翼:「あ、いえ・・・。本当にこれで好きな人の気持ちがわかるんだって思ったら、ちょっと、怖くなっちゃって・・・。」

空:「怖い?」

ヒメル:「そっかぁ。彼の気持ちがどっちだとしても、状況が変わっていくもんね。」

翼:「・・・はい。」

空:「じゃあやめようか?僕としても、カンドゥカルナを一時でも手放すのは不安なんだ。だってそうだろう?この貴重、かつ危険な(物を誰かの手に渡した状態になるなんて・・・)」

ヒメル:「(被せて)翼ちゃん!私、翼ちゃんの恋が上手くいくように祈ってるからね!」

翼:「は、はい!

私、頑張ります!」

空:「ぼ、僕だって応援してるよ!

頑張ってね、翼ちゃん。」

翼:「はい!」

ヒメル:「さっき空が言ったこと、きちんと守ってね。大切な事だからね!」

空:「ハイビスカスの花言葉は、『あなたを信じます』。ハイビスカスティーをおいしく飲んでくれた君なら、用法・用量を守って使ってくれると信じてるよ。」

翼:「はい!」

空:「三日後にまたおいで。その時、また話を聞かせてほしいな。」

翼:「はい!ありがとうございます!」





翼:「(M)お辞儀をして、姿勢を元に戻すと、そこには店も路地も何も無く、ただの壁が続いていた。

あまりにも突然で、夢でも見ていたのかと一瞬戸惑う。

だが、私の手の中には、丸いものが握られていた。

目を向けてみると、それは優しく淡い光を放っていていて、私を見守ってくれているように見えた。



翼:「急いで帰って、準備しなくっちゃ。」




(しばらくの間・数日後)




ヒメル:「空〜、あれから翼ちゃん、どうしたかなぁ。」

空:「ん?誰だって?」

ヒメル:「んもう!また忘れたの?翼ちゃんだよ!」

空:「えと・・・お客様かな?」

ヒメル:「まったく!この前店に来た、彼の気持ちが分からないって悩んでた翼ちゃん!怖がりながらも、前に進みたいって言ってたじゃない!」

空:「・・・(考える間)あぁ、あの子か。そうだね、気になるね。」

ヒメル:「・・・忘れてたくせに・・・。」

空:「ん?」

ヒメル:「なんでもない!心配だから、様子見たいな。」

空:「そうだね。じゃあ、翼ちゃんが使っていたこのマグカップを使って、あれからどうなったか覗いてみようか。」



ヒメル:「(M)空には、他人(ひと)の人生を覗き見できる力がある。

ただ、誰でも彼でも覗き見できる訳ではなくて、一度会って、一緒に飲み物を飲んだ人限定で。

覗き見する時は、その時その人が飲んだカップで、その人が飲んだ同じ飲み物を準備しなくてはならない。

その同じカップに、同じ飲み物を入れた時だけ、水面に映像が映し出されるのだ。」



空:「準備をするから少し待ってて。」

ヒメル:「うん!

・・・・・・?あれ?」

空:「もうちょっと待ってて、ヒメル。」

ヒメル:「ねぇ、空〜。」

空:「ヒメル、もう少しだから。」

ヒメル:「空〜、誰か来るよ?」

空:「え?・・・本当だ。誰だろう?」

ヒメル:「翼ちゃんかな?」


(扉が開く)


翼:「(何かに怯えるように)た、助けて・・・。」

ヒメル:「あ!翼ちゃん!」

翼:「・・・も、もう・・・やだ・・・助けて・・・。」

ヒメル:「どうしたの!?」


空:「(M)翼ちゃんは、ガクガクと震えながら、ブツブツと何かを呟いて、怯えるように奥へ進み、ソファのクッションを頭に被ると、そのまま動かなくなってしまった。」


ヒメル:「ちょっと、どうしたの?翼ちゃん。何かあったの?」


空:「(M)ヒメルの問いにも答えず、ただただ震えていた。」


空:「ヒメル、これは恐らく・・・。」

ヒメル:「何かあったことは明白だね・・・。」

空:「翼ちゃんは話せそうにないし、僕はこのまま準備して、何があったかを確認するよ。」

ヒメル:「私は翼ちゃんのそばに居る。」

空:「あぁ、頼んだよ。」

ヒメル:「うん。」




(回想)




翼:「まずは水を用意してっと。」


翼:「(M)五リットルの水はなかなかに重い。

それでも、晴人君の事を思えば、なんてことなかった。

きっと明日、彼の気持ちが分かる。

晴人君が私を好きじゃなくても、それでも、前に進む為には、知らなくてはならないと思う。

・・・それに、・・・もしかしたら・・・。

万が一ってこともあるかもしれない・・・。

晴人君も、もしかしたら私のことを・・・。」


翼:「いやいや、そんなこと!

でも・・・。

いやいや、もしかしたら美空さんと付き合ってるってこともあるかもしれないし・・・。


翼:「明日になればハッキリする!頑張らないと!」




(次の日)



『』の部分は、心の声です


晴人:「おはよう!」

翼:「あ、・・・お、おはよ・・・。」

翼:(あぁ・・・せっかく話しかけてくれたのに、いつもこうだ・・・。

・・・早速だけど、覗かせてもらおう。

水筒に入れてきたこの水を飲んで・・・。)


(水を飲む)


翼:(ごめんね、晴人君。失礼します!)

晴人:『今日も杏奈はかわいいな。付き合ってまだ一週間。これからもっと(二人の時間を・・・)』

翼:「っ!(急に立ち上がる)」

晴人:「えっ!?なに??」

翼:「あ・・・、なんでも、ない・・・。

・・・・・・っ!(走り去る)」




翼:(杏奈なんだ・・・。杏奈と付き合ってるんだ・・・。)


翼:「(M)杏奈は・・・小さい頃からずっと一緒の、私の親友・・・。

可愛くて、優しくて、杏奈がいるだけで周りが暖かくなるような、そんな女の子。

そうか・・・。だから・・・。

晴人君が私に話しかけてくれたのは、杏奈の親友だったからだ。

そうだ・・・それだけだったんだ・・・。

なのに勝手に勘違いして・・・。」


翼:「っ!」




(翼、杏奈を見つける)




翼:「杏奈!」

杏奈:「あ、翼。どうしたの?」

翼:「杏奈・・・。

・・・・・・晴人君と付き合ってるって、本当?」

杏奈:「え?・・・・・・うん(恥ずかしそうに)。」

翼:「!」


翼:「(M)『うん』と恥ずかしそうに頷く杏奈は、頬をほんのり赤らめ、いつにも増して可愛かった。

私はいたたまれなくなり、何か言おうとしている杏奈を振り切って、駆け出してしまった。」






翼:「(M)晴人君と付き合ってるのは杏奈。その事実を叩きつけられて、何も考えられなくなった。

翼:頭に浮かぶのは・・・」


翼:(もっと前から、杏奈に、この不毛に見えるの恋を相談していれば良かった・・・。

そうしたら、きっと杏奈は、晴人君とは付き合わない。例え両想いだとしても、杏奈は私の為に晴人君の気持ちには応えない。

そうしたら、こんな・・・親友も好きな人も、一度になくす事にはならなかったはずなのに・・・。)


翼:「(M)醜い。

自分でも醜いと分かる身勝手さ。

なぜ、親友の幸せを祝えないのか・・・。

杏奈のように、優しく、きれいでいられないのか・・・。

杏奈に対する嫉妬と自己嫌悪が、綯い交ぜ(ないまぜ)になって、思考が停止する。」


翼:「・・・でも、・・・だって・・・。

きっと私の方が先に好きだったのに・・・。」




(しばらくの間・教室)





※クラスメイト①→空兼役、クラスメイト②→ヒメル兼役

(クラスメイトに向かって)


翼:「・・・ね、ねぇ、知ってる?

あ、えっと・・・、内緒なんだけど、実は杏奈と晴人君、付き合ってるんだって。」

クラスメイト①:「え?マジで?」

翼:「ま、マジだよ。付き合い始めたの、一週間くらい前らしいよ。」

クラスメイト②:「え、だって美空さんと付き合ってるんじゃないの?」

翼:「私、本人に、確かめたもん。」

クラスメイト①:「あぁ、杏奈と仲良いもんね。」

翼:「・・・。」

クラスメイト②:「マジか〜。・・・っつーか、これ、バレたら結構女子騒ぐんじゃね?(ニヤニヤ)」

クラスメイト①:「女子の嫉妬はえげつないからな〜。杏奈やばいんじゃない?(ニヤニヤ)」

翼:「だ、だよね。」

クラスメイト②:「公認カップルだった美空さんならまだしも、杏奈ねぇ(ニヤニヤ)」

翼:「な、内緒だよ。」

クラスメイト①:「わーかってるって。内緒な〜。(ニヤニヤ)」

クラスメイト②:「内緒内緒〜。(ニヤニヤ)」




(少しの間)




翼:「(M)噂は瞬く間に広まった。

それはそうだ。噂を広めてくれそうなクラスメイトに、わざわざ話したのだ。」


翼:「だって、許せなかったから。どうしても。

内緒にしてた杏奈も。気を持たせるようなことしてた晴人君も。

二人の関係が壊れればいいと思った。

だってもう私は、杏奈の顔も晴人君の顔も見られない。

私だけが我慢するのはおかしい。

私だけが落ちていくなんて嫌。

二人も一緒に落ちればいい。

そう・・・思った。」




翼:「まもなく、杏奈に対する、女子からの陰湿なイジメが始まった。

皆、私と同じ気持ちなんだと思った。

私は正しい。

皆を欺いて付き合っていた二人に、皆の気持ちをぶつけるきっかけを与えた私は・・・正しいことをした・・・はずだ。」




(少しの間)




クラスメイト②:「ねぇねぇ、翼〜。」

翼:「え?な、何?」

クラスメイト①:「なんか他にもっと、誰かの秘密とか知らないの?」

クラスメイト②:「お前なんか色々詳しそうじゃん。」

翼:「・・・え。」

クラスメイト①:「今回めっちゃ面白いことになったから、また次のが欲しいんだよねー。」

翼:「え・・・?」

クラスメイト②:「なかったら、探偵でも雇って、探してこいよ。ひひっ♪」

翼:「な、なんで・・・?」

クラスメイト①:「・・・うちらさ、噂話好きだけど、情報源は明かさないようにしてるんだ。皆、自分が情報源って言うのはさ、あんまりバレたくないみたいなんだよ。まぁ、うちらの・・・優しさ?」

クラスメイト②:「・・・おまえ、情報源が自分だって、バレてもいいわけ?」

翼:「え?」

クラスメイト②:「もしバレたら、『杏奈と仲良かった翼がバラしたんだ。サイテー。』ってなると思わない?」

クラスメイト①:「あぁ!杏奈かわいそー!あんなにイジめられて、しかもその原因が、親友が杏奈を売ったからなんて!・・・皆が知ったら・・・ね?」

翼:「っ!」

クラスメイト②:「次の情報・・・早く、な?」

クラスメイト①:「おもしろいの頼むな〜♪」

翼:「・・・・・・。(へたり込む)」




(しばらくの間)




翼:「(M)あの日から、私は毎日カンドゥカルナの水を常備し、みんなの秘密を探った。

カンドゥカルナの水を飲めば、皆の秘密はどんどん手に入った。

その度に、あの二人に情報を渡した。

その度に、誰かが傷つけられていった。

なんにも関係のない、たくさんのクラスメイトが・・・。

だけど私は・・・自分を守ることしか考えてなかった。

だって、傷ついてるのは私も同じ。

あいつらに脅されて。要求されて。・・・もう、どうしようも・・・どうすればいいかも・・・わからなかった。」




(少しの間・その日の夜)




翼:(もっと、いつも皆の心が読めるようになりたい。

あいつらの要求は、増えるばっかりだし、もっと情報を集めないと・・・。

でもあれ以上の大量の水なんて飲めないよ・・・。

私、一日何リットルの水を飲んでるんだろう・・・。

もう、やだ・・・。もうやだよ・・・。」




翼:「・・・あ。そうだ。良いこと思いついた!!

空さんはダメだって言ってたけど、カンドゥカルナを飲んじゃえばいいんじゃない?

そしたら、いつも心の声が聞こえるようになるんじゃ・・・。

そうだよ!そうしよう!!

カンドゥカルナを金槌で砕いて・・・。)


(カンドゥカルナを砕く)


翼:「よし、砕けた!これを・・・」


(飲み込む)


翼:「あ、結構甘くておいしい。これなら全部食べられるかも。ミルク味の飴みたい♪」



(少しの間・全部飲み込む)



翼:(よし!全部飲んだ!

どうだろう?耳を澄ませてみよう・・・。」



翼:「あ、・・・お母さんが私の事、心配してる・・・。最近変だって、気づいてるんだ。

お母さん、心配かけてごめん。

私もどうしていいのか、分からないんだ・・・。こんなこと、嫌なのに・・・。もう・・・どうしたらいいのか・・・。誰か・・・助けて・・・。)




(少しの間・次の日の朝)




翼:(あぁ!もううるさい!!聞きたくないのに、勝手に耳に入ってくる!

隣のおばさんは不倫してるし、向かいのおばあちゃんはボケてて支離滅裂だし、裏のおじさんは会社のお金横領してるし、最低な大人ばっかり!

(溜息)うるさすぎて眠れなかったよ・・・。

こんな状態で、学校、大丈夫かな・・・。)



(学校)



翼:(あれ?杏奈?)


翼:「(M)杏奈がフラフラと階段を上がっていく。

制服はボロボロで、足を引きずりながら登っていく。」



翼:「(M)私は思わず隠れた。

自分のことに精一杯で、杏奈が今どうなっているかなんて、気にする余裕もなかった。

後ろめたさもあって、杏奈から来るLINEも読まずに消していた。

こんなことになってるなんて・・・。」


翼:(杏奈・・・。すごいやつれてる・・・。)


翼:「(M)朗らかで優しい杏奈の面影は、もうなかった。」



翼:「(M)私は、初めて自分のやった事を直視した。分かってて、こうなるように仕向けた。

親友の杏奈を、こんな姿にしたのは・・・・・・自分だ。」




翼:「(M)杏奈は校舎の最上階に向かっているようだった。最上階には、音楽室がある。

よろよろとした歩みで、音楽室へと入っていく杏奈。

なぜか杏奈の心の声は聞こえない。他の人のはうるさいくらいに聞こえてくるのに。

何を思って音楽室へ入ったのか、分からなかった。

ドアを閉めてしまうと、音楽室の中は見えない。少し躊躇した。ドアを開けて杏奈に見つかったら、言い訳ができない。でも、杏奈の姿に、罪悪感と、言い知れぬ不安がよぎる。

躊躇しつつも、ドアを少し開けて覗いてみると、杏奈は窓を開けていた。」




翼:「杏奈っ!!!」




翼:「(M)私の声と同時に、杏奈は窓を飛び越えた。





翼:杏奈は・・・





翼:私に笑顔を向けた。」






翼:「あぁああぁああぁあぁあぁああぁぁああぁあぁあ!!」




(現在)




翼:「やめて!!やめてやめてやめて!!!」

ヒメル:「そ、空!」

翼:「もう・・・やめて・・・。」

空:「・・・・・・。」

ヒメル:「空、ちょっと休憩しよう。ね?」

空:「翼ちゃん・・・。」

翼:「・・・。

もう・・・何も聞きたくない。誰とも会いたくない。もう嫌なの!」

空:「翼ちゃん。耳から手を話してご覧。僕達の心の声は、君には聞こえないだろう?」

翼:「え・・・?」

ヒメル:「どう?翼ちゃん。」

翼:「・・・・・・聞こえない。」

空:「だろう?だから落ち着いて、僕の声をよく聞いて。

君がやった事は、誰も幸せにしない。もちろん君もだよ。でもやってしまった事はもう戻らない。」

翼:「・・・。」

空:「君がここに逃げ込んでも、何も解決しない。」

翼:「・・・。」

空:「わかるね?」

翼:「・・・。」

空:「僕は、なぜ君がそんなにも怯えているのか、理解しなければいけない。今の君では、きちんと話せそうにないからね。だから、この続きを見るよ。」

翼:「!」

ヒメル:「そ、空!」

空:「でも君に同じ光景を見せるのは、得策とは言えないと、僕も思う。

だから、少し眠っておいで。あんまり、寝てないんだろう?」

翼:「あ・・・。」

ヒメル:「大丈夫。このお店の中なら大丈夫だよ。翼ちゃん、少し眠ろう。」

翼:「は、はい・・・。ありがとう・・・ございます・・・。」


(翼、倒れるように眠る)




空:「ヒメル、続きを見るよ。」

ヒメル:「う、うん。この脅えようは、この後も何かあったんだよね・・・。

ヒメル:私もちゃんと見るよ。」

空:「・・・あぁ。始めよう。」




(回想)




翼:「(M)杏奈の死は、すぐに知れ渡った。

目の当たりにした私は、警察に呼ばれ、話を聞かれる。

ありのままを言うしかなかった。

でも・・・・・・私が噂を流したことが発端だとは、最後まで口に出せなかった。」




翼:「(M)教室に入ると、一瞬静まり返った後に、皆一様にコソコソ話している。」




※以下、クラスメイトその他・生徒は、好きに読んで頂いて構いません。同じ人でも、違う人でも。

※引き続きクラスメイト①→空兼役、クラスメイト②→ヒメル兼役


空(クラスメイトその他):『良くのうのうと来れるね。』

ヒメル(クラスメイトその他):『マジ面の皮あつー。』

空(クラスメイトその他):『警察でちゃんと話したのかな、自分のせいですーって。』

ヒメル(クラスメイトその他):『そもそもの原因のくせに、何憔悴した顔してんだって話だよねー。』

翼:「!?」

クラスメイト①:「あ、分かっちゃった?みんなにバラしちゃった!」

クラスメイト②:「お疲れお疲れ!そしてこれからもお疲れさん!・・・さようなら。」

翼:「え・・・なんで・・・?」

クラスメイト①:「いやぁ、親友を売って、自殺現場に居合わせるって・・・イカれたサイコパスに気をつけてって、ちゃんと皆に言わないとでしょ。」

クラスメイト②:「お前がやったんじゃないの〜?」

翼:「!(クラスメイト②に顔を向ける)」

クラスメイト②:「おぉこわっ!皆!気をつけないと・・・殺されちゃうよ・・・?」

翼:「そ、そんなこと・・・!」


(矢継ぎ早にクラスメイトの心の声が聞こえる)


空(クラスメイトその他):『こわ』

ヒメル(クラスメイトその他):『きも』

空(クラスメイトその他):『こっち見んな』

ヒメル(クラスメイトその他):『こっち来んな』

空(クラスメイトその他):『どっか行けよ』

ヒメル(クラスメイトその他):『消えろよ』

空(クラスメイトその他):『クズ』

ヒメル(クラスメイトその他):『サイテー』

空(クラスメイトその他):『殺人犯』

ヒメル(クラスメイトその他):『お前が死ねよ』

翼:「っ!」


(翼、教室から逃げ出す)




(翼、行く宛てもなく走って逃げる)


翼:「っ・・・はぁっ・・・はあっ・・・」

ヒメル(生徒):『あの子、噂の・・・』

空(生徒):『あの子じゃない?自殺した子の・・・』

ヒメル(生徒):『何走ってんの?』

翼:「はっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」

空(生徒):『逃げてんの?』

ヒメル(生徒):『イジメ?』

空(生徒):『自業自得・・・』

翼:「っ!」

ヒメル(生徒):『自殺した子へのイジメも酷かったって・・・』

翼:「!!」

空(生徒):『あの子、親友だったってよ?』

翼:「っ!!」

ヒメル(生徒):『何?親友の情報を売ったの?』

翼:「!!!」

空(生徒):『最低じゃん』

ヒメル(生徒):『あの子も、同じ末路じゃね?』

空(生徒):『当然だよね。』

翼:「っ・・・もう・・・もうやめてぇぇぇぇぇぇ!!」




(翼、人気のないところまで走って逃げる)




翼:「はぁ!・・・はっ・・・はぁ・・・。う・・・うぅっ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

あんな事になるなんて思ってなかった・・・!・・・ただ・・・羨ましかっただけなのっ・・・!

何でも持ってる杏奈が・・・っ!

晴人君と付き合ってる杏奈が・・・!

幸せそうに笑った杏奈が・・・っ!

私には何もないから・・・うっ、ううっ・・・。


翼:・・・杏奈だったから・・・、許せなかった・・・。


翼:あぁああぁああぁあぁあぁああぁぁああぁあぁあ!!」





翼:「(M)泣き疲れて、ふと顔を上げると、見た事のある路地があった。

縋るように路地に入る。

奥には、青空が広がっていた。」




(現在)




空:「・・・。」

ヒメル:「・・・。」

空:「・・・悪意ある人の心は、人の心を突き刺す。翼ちゃんは、カンドゥカルナを飲んでしまったが為に、その悪意に無防備に晒されてしまったんだ。」

ヒメル:「・・・自分に向けられた悪意が、直接聞こえてくる・・・。」

空:「耳を塞いでも、聞こえなくなることはない。」

ヒメル:「・・・こわい・・・。」

空:「そうだね。翼ちゃんも耐えられなかったんだろう。」

ヒメル:「杏奈ちゃんのこともあるしね・・・。」

空:「あぁ・・・。」

ヒメル:「きっと軽い気持ちで話しちゃったんだね。あんな事になるとは思わずに。」

空:「ちょっとした意趣返しのつもりだったんだろうね。きっと、裏切られて、自分の幸せを奪われた気分だったんだ。」

ヒメル:「杏奈ちゃんは、何も悪くないのにね。」

空:「あぁ・・・そうだね・・・。」




(少しの間)




翼:「ん・・・。」

ヒメル:「あ、翼ちゃん!起きた?」

空:「おはよう。」

翼:「・・・お、おはようございます・・・。」

ヒメル:「よく眠れた?

・・・うん、顔色がちょっと良くなってる。」

翼:「す、すみません。」


(空、ハイビスカスティーを出す)


空:「はい。ハイビスカスティーだよ。ちょっとハチミツを多くしておいたからね。ゆっくり飲んで。」

翼:「は、はい・・・。」


(翼、ハイビスカスティーを飲んで、一息つく)


翼:「・・・ふぅ。」

ヒメル:「あ!空!私にも〜!」

空:「はいはい。・・・どうぞ。」

ヒメル:「わぁい♪ありがと!」

翼:「・・・ふふっ。」

空:「翼ちゃん、少しは落ち着いた?」

翼:「・・・はい。」

ヒメル:「よかったね!」

空:「・・・・・・。

翼ちゃん、これからの事なんだけど・・・。」

翼:「っ!

私にこれからなんて・・・ないっ!こんな・・・最低なヤツ・・・。

イジメられて、酷いこといっぱい言われて、死んでいくしかない・・・。」

ヒメル:「翼ちゃん・・・。」

翼:「全部聞こえるの!皆が私の事どう思ってるか!・・・ううぅ・・・。・・・怖い・・・怖いよ・・・。もう・・・何も聞きたくない・・・。」

ヒメル:「そ、空ぁ・・・。」

空:「翼ちゃん、落ち着いて。

落ち着いて、ちゃんと話を聞いて。

君が飲んでしまったカンドゥカルナの事なんだけど・・・。」

ヒメル:「空、・・・何とかできる?」

空:「・・・現状、それを取り出す方法は・・・、残念ながら、ない。」

翼:「っ!」

ヒメル:「な、ないの!?こんなに苦しんでるのに!?」

空:「・・・。」

翼:「・・・あ・・・。」

空:「・・・残念だけど、ない。

本来、少し人の心を読む程度だったら、カンドゥカルナのエキスが少し溶けたものを摂取するくらいでいいんだ。それだけなら、体の六十パーセントが水分の人間は、消化されて体の一部になってしまえば、薄まって、その効果はほとんど得られなくなる。そのうち体外に排出されて、全く聞こえなくなるんだ。

だけど今回、翼ちゃんは、全てのカンドゥカルナを体内に入れてしまった。これでは、消化されても、量が多すぎて体の中で薄まらず、効果が持続されてしまうんだ。それに、カンドゥカルナを全部体外に出すとなると、翼ちゃんの体内の水分をそっくり入れ替えるくらいじゃないと・・・。」

ヒメル:「そんなの無理だよ!」

翼:「あ・・・、あぁ・・・、あぁぁあぁ・・・。」

空:「・・・そう、無理なんだ。」



(少しの沈黙)



翼:「・・・・・・・・・・・・。

・・・こ、・・・ここにいさせてください・・・。」

空:「・・・え?」

翼:「ここだったら、誰の声も聞こえない。なんでかは分からないけど、ここだったら・・・」

空:「だめだよ。」

ヒメル:「・・・。」

翼:「・・・なんでですか?

・・・・・・見捨てないで(涙があふれる)。」

空:「・・・・・・(苦しい表情)。」

ヒメル:「翼ちゃん・・・。

空はね、意地悪で言ってるんじゃないんだ。何か訳があるんだよ。じゃなきゃ、そんなこと言うわけないもん!

ねぇ!空!そうだよね?」

翼:「・・・。」

空:「・・・・・・ここにいると、翼ちゃんは・・・死んでしまうから・・・。」

ヒメル:「え?」

翼:「・・・死んでしまう?」

ヒメル:「なんで?苦しまないためにここにいたいのに、なんで死ぬの!?」

空:「・・・。」

翼:「・・・な、なんで・・・ですか?」

空:「・・・この店はね、次元の狭間に存在しているんだ。だから、時間も場所も選ばずに、困っている人の元へ現れることが出来る。」

翼:「・・・次元の・・・狭間?」

空:「不思議に思わなかったかい?なぜ、今まで無かったはずの路地が現れて、この店に来ることが出来たのか。」

ヒメル:「でも、なんでそれで翼ちゃんが死んじゃうの?この店がある場所は、今は関係ないじゃん!」

空:「言っただろう?時間も場所も選ばない、と・・・。

もし今から何百年後に一気に飛んでしまったら?」

ヒメル:「・・・あ。」

翼:「?」

空:「翼ちゃんは、一瞬で何百年の時を過ごすことになる。次元の狭間とはいえ、時間の経過はリアルなんだよ。」

翼:「え?で、でも、空さんとヒメルさんは・・・。」

空:「・・・僕達は・・・、この空間の存在だ。・・・君とは違う・・・。」

ヒメル:「・・・私達も、どこに飛ぶのか、いつ飛ぶのかは分からない・・・。」

空:「そうだ。」

翼:「・・・ど、どうしようもないの?」

空:「君は、君の時間で生きるしかない。」

翼:「あそこに戻って・・・?」

ヒメル:「翼ちゃん・・・。」

空:「君の生きる世界は・・・あそこだ。」

翼:「・・・!・・・いやっ!あそこには戻りたくない・・・(震える)。」

空:「君が作り出した世界だ。」

翼:「いやっ!!」

空:「ここにいても、君に待ってるのは死なんだ!」

翼:「いやだっ!!」

ヒメル:「そ、空・・・、ちょっと待って!」

空:「待てない!」

翼:「!」

ヒメル:「・・・なんで?」

空:「翼ちゃんは、さっきここにいたいと言った。その気持ちを受けて、もう、空色の店は、動き出そうとしている。」

翼:「・・・空色の店は、生きてるの?」

空:「意思があるんだ。

だから・・・、君は戻らなくちゃ行けない。今すぐに。」

翼:「・・・・・・。

・・・あんな辛い世界なら、戻れなくてもいい・・・!死んだ方がマシ(だよ・・・!)」


(翼、言葉の途中で、砂状になる)


ヒメル:「っ!

あ、あ・・・、あぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!翼ちゃん!!」

空:「っ!

・・・なんて事だ・・・。・・・間に合わなかった・・・。」




(しばらくの間)




(ヒメル、空を探す)


ヒメル:「空〜?

・・・どこいっちゃったんだろ。」


ヒメル:「(M)あの日から空は、物思いにふけることが多くなった。

話しかけても、心ここに在らずって感じで、生返事しか返ってこない。

・・・まぁ、もともとあまり人の話を聞いてなかったけど・・・。」


ヒメル:「・・・今日もあそこかな・・・。」




(少しの間)




(空、空色のお店の庭にある、翼のお墓の前で佇む)


ヒメル:「空。見つけた・・・。」

空:「あ、ヒメル・・・。」

ヒメル:「・・・。」

空:「・・・何となくね、ここに足が向いてしまって。」

ヒメル:「空が毎日会いに来てたら、翼ちゃんも寂しくないね。」

空:「そうかな・・・。

僕なんかが会いに来るより、おうちに帰れた方が嬉しいんじゃないかな、と思うんだけど・・・。」

ヒメル:「・・・砂になっちゃった翼ちゃんを、ご家族の元にに帰すことは出来ないもんね。」

空:「うん・・・。」

ヒメル:「また何か考え中?」

空:「・・・。

翼ちゃんは、僕のことを恨んでいるだろうか・・・。」

ヒメル:「・・・。」

空:「今でも、後悔の念が押し寄せるんだ。

カンドゥカルナを渡さなければよかった。

もっと早くに気づいてあげられたら良かった。

この店から、もっと早く出るように促していれば。


空:『たら』『れば』を言っていたら、キリがないんだけど・・・。」

ヒメル:「・・・・・・空。」

空:「・・・・・・。」

ヒメル:「冷たい言い方をするようだけど、カンドゥカルナを、間違った方法で使用したのは、翼ちゃん自身だよ。

杏奈ちゃんの事だって・・・、空が悪いんじゃない。

翼ちゃんが砂になってしまったことだって・・・。」

空:「・・・うん。」

ヒメル:「どうしようもない事だった。」

空:「・・・うん。」

ヒメル:「空は・・・精一杯助けてたと思うよ。」

空:「・・・・・・ありがとう、ヒメル。」

ヒメル:「・・・うん。」

空:「・・・僕は、この事を・・・、一生忘れない。


空:ね、翼ちゃん。僕らと一緒に、行こうね。」

ヒメル:「ずっと、一緒だよ。」




END