【空色の店〜null〜】


困ったり悩んだりしている時にだけ、あなたの前に現れる空色の店。



ご注意〛

・性別不問です。

・キャスト様の性別は問いません。

・アドリブは、世界観を壊さない程度でお願いします。

・一人称、語尾等の変更はOKです。


‪《登場人物》

①嬥(だく)

空色の店の店主。

性別不問


②碧(みどり)

学生。朝日とは幼なじみ。

性別不問


③朝日(あさひ)

学生。碧とは幼なじみ。

性別不問




-------❁ ❁ ❁-----ここから本編-----❁ ❁ ❁-------





嬥:「(N)あなたが住み慣れている街に、ふと、見覚えのない路地があったら・・・。

心のままに覗いて見てください。

きっとそこには、あなたが望んでいるものがある・・・かもしれません。」



(少しの間)



朝日:「碧~!」

碧:「朝日、今帰り?」

朝日:「うん!」

碧:「朝日はいつも元気だね。」

朝日:「へへっ!あったりまえじゃ〜ん!それだけが取り柄だもん!」

碧:「ははっ。だけど少しは勉強も頑張った方がいいよ。今日の数学の小テスト、何点だったんだっけ?」

朝日:「ゔっ・・・。へへっ・・・、7点!」

碧:「100点満点中、7点はやばいと思うよ。」

朝日:「でも7点だよ!良い数字!」

碧:「・・・そのポジティブ思考、見習いたいよ。」

朝日:「見習ってもいいよ!」

碧:「・・・ははっ!そうするね。」

朝日:「うん!」



(少しの間)



朝日:「あれ?」

碧:「ん?何?」

朝日:「あの河原の草むらのとこ!なんかダンボールあるよ!」

碧:「本当だ。ゴミが捨てられているのかな?」

朝日:「・・・!違う!碧、来て!」

碧:「え?な、何?」


(朝日、碧の手を引っ張って、河原に降りる)


碧:「・・・あ!」

朝日:「わぁ!かわいいねぇ!子猫だ!」

碧:「本当だ。」


(朝日、子猫を抱き上げる)


朝日:「捨て猫かな?」

碧:「だろうね。だいぶ衰弱してるな・・・。」

朝日:「温めて、ミルクあげないと!」

碧:「そうだね。・・・でも、うちはお母さんが猫アレルギーだから、連れて行けないな・・・。」

朝日:「あ!うちもだ!」

碧:「・・・どうしよう。」


(2人で途方に暮れる)


嬥:「どうしたんだい?」

碧:「え?」

嬥:「何かお困りかな?」

朝日:「そうなんです!捨て猫を見つけたんですけど、どっちも家に連れて帰れなくて・・・。こんなに衰弱してるのに・・・。」

嬥:「ほほぅ。どれ、ダンボールを貸してご覧。」

碧:「え・・・。」

嬥:「うちに粉ミルクがあったはずだ。温める用のタオルも準備しよう。」

朝日:「ほんとに!?」

嬥:「ああ。」

碧:「で、でも・・・。」

嬥:「どうしたんだい?」

朝日:「どうしたの?」

碧:「えっと・・・。」

朝日:「?」

嬥:「・・・あぁ。大丈夫だよ。うちは喫茶店をやっているんだ。そんなに警戒しなくても大丈夫。」

碧:「あ・・・、ごめんなさい。」

朝日:「あぁ!そっか!子猫の事しか頭になかった!

朝日:おじさん(orおばさん)、変なことしないでね!」

嬥:「はは、わかったわかった。

じゃあこの猫は、君が抱っこしてあげてね。(子猫を渡す。)」

碧:「うん。わっ!あ、あ、暴れる!」

嬥:「背中に手をあてて、お尻を抱えてあげてごらん。」

碧:「おっと、と、・・・あ、落ち着いたみたいだ。」

朝日:「もう、碧は〜!子猫を抱っこも出来ないの〜?」

碧:「朝日も出来ないでしょ。」

朝日:「出来るも〜ん。」

碧:「嘘ばっかり。」

嬥:「ははは。さ、うちへおいで。」

碧:「はい。」

朝日:「うん!」



(しばらくの間)



碧:(ん?こんなところに路地なんかあったかな?)

朝日:「わぁ〜!知らない道だ!」

嬥:「もう少しだよ。この路地の突き当たりにあるんだ。」

朝日:「へぇ〜!」


碧:「(M)路地の奥まで進むと、おそらく突き当たり・・・だと思う。不思議な建物があった。建物で合っているんだろうか。

建物の壁面が、空と融合している・・・。いや、空とおなじ模様で、どこが境目かがよく分からない。

ステンドグラスのはまったドアが、浮かんでいるようにそこにはあった。」


朝日:「わぁ〜!不思議不思議!」

碧:「どうなっているんだろう?」

嬥:「はは。不思議だろう?ここは、空色の店って言うんだ。

さ、中に入ろう。」



(しばらくの間)


(喫茶店内。朝日と碧は子猫がミルクを飲んでいるのを見ている。)


朝日:「わぁ、かわいいねぇ。」

碧:「うん、かわいい。」

朝日:「お腹すいてたんだねぇ。」

碧:「うん。」

嬥:「よかったね。この調子なら、元気になるのも早そうだ。」

朝日:「うん!」

碧:「ありがとうございました。」

嬥:「君達、この辺の子かな?

私は嬥(だく)って言うんだ。君達の名前は?」

朝日:「私は朝日!へへっ!いい名前でしょ!」

碧:「僕は碧です。」

嬥:「2人とも良い名前だね。さ、こっちにおいで。オレンジジュースでいいかな?」

朝日:「わぁ!ありがとう!」

碧:「ありがとうございます。」

嬥:「この子はここで引き取るよ。調度1人は寂しいなと思ってたとこだ。この子がいれば私も楽しいからね。」

朝日:「わぁ!よかった!」

碧:「何から何までありがとうございます。」

朝日:「ここに来れば、この子にまた会えるね!」

碧:「うん。」

嬥:「それはどうかな?」

碧:「え?」

嬥:「ここはさっき言った通り、空色の店って言うんだ。普段は辿り着けないけど、困ったり悩んだりしている時にだけ、ふとこの店への道が開かれる。

今回は私がたまたま君たちを見つけたが、いつも来れるとは限らない。むしろ、現れない方が幸せなお店なのさ。現れないことが、君達が幸せだって証拠だからね。」

朝日:「へ〜、そうなんだ。」

碧:「朝日、そんなこと、あるわけない。子供相手だからって、いい加減なこと言うのやめてください。」

嬥:「嘘じゃないさ。この店の外観だって、普通じゃ有り得なかっただろ?」

碧:「・・・っ、確かに・・・。」

朝日:「じゃあ、ほんとなんだ!」

嬥:「ああ。本当に困った時は、この店の事を思い出してくれれば、きっと君達の目の前に道が開かれるよ。」

朝日:「うん!その時は助けてね!」

嬥:「ああ。ただし、代償もあるけどね。」

碧:「代償?」

嬥:「私は、その人を助ける代わりに、その人の大事な物を頂いている。」

朝日:「大事な物?」

嬥:「お金だったり、名声だったり、家だったり、時には家族や恋人、・・・大事な友達、とかね。」

朝日:「・・・え?」

碧:「そ、そんなの上げられるわけないよ!」

嬥:「いいや、頂くよ。私は不思議な力を持ってる。欲しいものはなんでも貰えるのさ。」

朝日:「・・・。」

碧:「・・・。」

嬥:「あぁ、すまないね。怖がらせるつもりじゃなかったんだよ。

そういう事だから、この店には来ない方が幸せなんだよ。ただ、どうしても困って身動きが取れなくなってしまった人達の為に、この店は存在しているのさ。」

朝日:「ふぅん。」

碧:「・・・。」

嬥:「この子はちゃんと可愛がって育てるから、心配することないさ。」

朝日:「うん!嬥さんも良かったね!」

碧:「え?」

嬥:「・・・え?」

朝日:「だって、困ってる人達しか来れないんでしょ?それだと自分のことに精一杯で、嬥さんの話聞いてくれる人もいなそうだもん。この子と一緒なら、嬥さんも楽しいよね!」

嬥:「・・・そうだね。」

朝日:「よかったね、ネコちゃん!」

碧:「・・・。」


碧:「(M)僕は、朝日のその言葉に驚いた。見るからに怪しいこの人に、良かったねと言える朝日。天真爛漫で、純粋で、時々幼いこの幼なじみは、偏見などなしで、確信をつく。危なっかしいけど、こんな朝日を、僕は尊敬している。」


嬥:「さ、そろそろお帰り。空が暗くならないうちに。」

朝日:「うん!嬥さんありがとね!ネコちゃんをよろしくお願いします。」

碧:「よろしくお願いします。」

嬥:「あぁ、可愛がるよ。

・・・本当に・・・、本当に困ったら、この店を思い浮かべてご覧。必ず迎えに行くからね。」

朝日:「うん!」

碧:「はい。その時は、また。」


碧:「(M)一瞬の瞬きの隙に、僕らはいつもの道に立っていた。目の前にいたはずの嬥さんも、あったはずのお店も路地も、全てが夢だったかのように消えていた。」


朝日:「あれ?消えちゃった!不思議だね〜!」

碧:「うん。」

朝日:「でも、また会える気がするな!」

碧:「それは、僕らが悩みを抱える時って事だけど・・・。」

朝日:「それはわかんないじゃん!今日だって出会えたわけだし!」

碧:「・・・確かに。・・・会えるといいね。」

朝日:「うん!」



(しばらくの間)



朝日:「碧〜!」

碧:「あ、朝日。」

朝日:「見つかった?」

碧:「・・・また探してるの?」

朝日:「だって、嬥さんとネコちゃんに会いたいし!」

碧:「その時がきたら、きっと会えるよ。気長に待とうよ。」

朝日:「そんなこと言ってたら、あっという間に年取っちゃうよ!」

碧:「嬥さんも言ってたでしょ?空色の店は、現れない方が幸せの証だって。僕達は幸せってことだよ。」

朝日:「うー、そうだけど〜。でも会いたいし!」

碧:「・・・ははっ。」

朝日:「何?なんで笑ったの?」

碧:「・・・くっ、うん、ごめん・・・ははっ。朝日だなぁと思って。」

朝日:「ん~?私はいつでも朝日だよ?おかしな碧~。」

碧:「ははっ!うん、そうだね。」

朝日:「でも、そっかぁ。現れないのは幸せの証かぁ。・・・うーん。」

碧:「・・・よし!今日は丘の上の公園の方まで探してみようか。」

朝日:「え?碧も探してくれるの?」

碧:「やっぱり僕も会いたいし。」

朝日:「・・・っ♪うん!」

碧:「じゃあ公園まで競走!(走り出す)」

朝日:「あ!ずるい!待ってよぉ!(追いかける)」

碧:「ははっ!早く~!」

朝日:「ずるいよ~!」


(スピードを出した車が走ってくる)


朝日:「っ!碧!」

碧:「え?」

朝日:「あぶない!」

碧:「・・・っ!」


(朝日、碧を突き飛ばす)


碧:「わっ!」

朝日:「・・・っ!」


(キキーッと大きな音を立てて車が止まる)

(少しの間)


碧:「いってて・・・。」

朝日:「・・・。」

碧:「・・・っ!朝日!(朝日に駆け寄る)」


(朝日、ぐったりして動かない)


碧:「朝日!朝日!朝日ーーー!!!」



(しばらくの間)



碧:「(M)朝日は、救急車で運ばれた。すぐに手術が行われたが・・・、朝日が目を覚ますことは、無かった。」


碧:(僕の・・・、僕のせいだ・・・。あの時、僕が走り出さなければ・・・、競走なんて言わなければ・・・、あの時、僕が!)


碧:「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



(しばらくの間)


(朝日の葬儀後)



碧:「(M)みんな、僕は悪くないという。自分を責めないでと。

朝日のお母さんは、朝日と仲良くしてくれてありがとう、救急車を呼んでくれてありがとうと、泣きながらお礼を言う。

僕のせいなのに。僕が悪いのに。誰も僕を責めてくれない。僕の事を叱ってくれない。

僕が・・・悪いんだ。なのに・・・。」



(葬儀後、帰り道)



碧:(泣く資格なんかない・・・。僕が朝日を死に追いやった。僕が泣くことは、許されない・・・。どうしたら・・・。朝日・・・。朝日・・・っ!)


碧:「(M)いつもの家までの帰り道。毎日通っている見慣れた道、のはずなのに・・・。ふと顔を上げると、忽然とそこに存在していた。」


碧:「・・・あ、この路地・・・。・・・この路地は・・・!」


碧:「(M)縋るように路地に入る。奥には、夜空が拡がっていた。」



(少しの間)


(ドアが空く)


嬥:「いらっしゃいませ。・・・おや?君は・・・。」

碧:「っ!・・・あ、・・・あぁぁ、だ、嬥さんっ!」

嬥:「おやおや、どうしたんだい?そんなに辛そうな顔をして。」

碧:「だ、嬥さん・・・っ!」

嬥:「とりあえずこっちに来て座りなさい。温かいココアを入れてあげよう。」

碧:「うっ・・・、うう・・・。」

嬥:「ほらほら、おいで。温まるよ。」

碧:「・・・う、・・・うん。」



(少しの間)



嬥:「さて、少しは落ち着いたかな?」

碧:「・・・。」

嬥:「ゆっくりでいい、話してご覧。」

碧:「・・・。」

嬥:「話せば、少しは楽になるかもしれん。」

碧:「・・・楽に・・・?」

嬥:「うん。」

碧:「楽になんか、なっちゃダメなんだ!僕は!僕が朝日を・・・!」

嬥:「・・・そうか。じゃあ、君の罪を吐き出してご覧。」

碧:「っ・・・。僕は・・・。」

嬥:「ゆっくりでいいからね。」

碧:「・・・僕は、朝日とこの店を探そうとしてたんです。嬥さんと子猫に会いたくて。朝日もずっと探してて。だから一緒に探そうって・・・。」

嬥:「・・・うん。」

碧:「朝日は毎日探してて、家の近所はもう一通り探し終わってみたいだったから・・・。」

嬥:「・・・うん。」

碧:「じゃあ僕も手伝うから、今度は丘の上の公園の方を探そうって、僕が言いました・・・。」

嬥:「・・・うん。」

碧:「公園まで競走だって言って、僕が走り出したところに車が走ってきて・・・。僕が轢かれそうになったのに、朝日が・・・、朝日が助けてくれたんです。でも・・・!」

嬥:「うん。」

碧:「朝日が僕の身代わりになったんですっ!僕がもっとちゃんと周りを見て居れば!競走だって言わなければ!朝日は!」

嬥:「・・・。」

碧:「・・・死ななかったのに・・・。」



(少しの間)



嬥:「心配しているよ?」

碧:「・・・え?」


(子猫が碧の足にすり寄ってくる)


嬥:「ずっと心配そうに君のそばにくっついてる。」

碧:「・・・っ!・・・う、うぅ・・・。」

嬥:「こっちにおいで、ヒメル。」

碧:「ひ、ひめる?」

嬥:「名前をつけたんだよ。ドイツ語で、空って意味だ。この店にピッタリだろう?」

碧:「・・・うん。」


(カウンターの上に上がって、碧の顔に顔を擦り付けるヒメル)


碧:「・・・っ、・・・ふふ、ありがとう、ヒメル。温かい・・・。」

嬥:「・・・さて、よく話してくれたね。じゃあこれからの話をしようじゃないか。」

碧:「・・・?これから?」

嬥:「あぁ、これからの話さ。私は君を助けることが出来る。」

碧:「え・・・?」

嬥:「前にも話したね?ここは困ったり悩んだりしている人達を助けることが出来る場所だと。」

碧:「・・・うん。」

嬥:「私なら、ある意味君たち二人を助けることが出来るよ。」

碧:「・・・え!?」

嬥:「おや?そのつもりで来たんじゃないのかな?」

碧:「え・・・、いえ、助けてもらえるって言うより、この路地を見つけて咄嗟に入ってしまったというか・・・。」

嬥:「おやおや、欲のない。君の願いを叶えてあげられるかもしれないのに。」

碧:「僕の・・・願い?」

嬥:「生き返って欲しいんだろう?」

碧:「・・・え!?」

嬥:「ある意味願いは叶えてあげられるだろう。ある意味ね。ただ、前にも言ったが、代償は必要だよ。どうする?話を聞くかな?」

碧:「っ!はい!もちろん!」

嬥:「・・・ふふっ。まずは君の願いだ。生き返らせるには、魂の器が必要だ。器がなければ生き返れない。」

碧:「器?っ!じゃあ僕を!僕を使ってください!」

嬥:「慌てるんじゃないよ。君には代償を払ってもらわなくてはならないからね。君は使わない。器にはこの子を使う。」

碧:「・・・え?」

嬥:「ヒメルが器だ。」

碧:「・・・え・・・、ヒメルが器・・・。」

嬥:「この子に魂を宿して、ネコとして生き返らせる。大丈夫、体はネコだが、中身は人間だよ。宿った時に、人間の自覚があるとは限らないけどね。」

碧:「え・・・?どういう・・・?」

嬥:「ネコとして生き返る時に、前の記憶はほとんど無くなるだろう。だが、根底には元の人格がある。同じ人格で、ネコとして生まれ直すってところかな。大丈夫、ネコになっても、人間の言葉が話せるはずだよ。」

碧:「・・・え?でも朝日は人間です・・・。」

嬥:「わかってるさ。でもね、人間を別の人間として生まれ変わらせるのは、リスクが伴う。他の人間の人生を乗っ取るわけだからね。ネコで我慢しな。」

碧:「でも・・・、ヒメルは?」

嬥:「ヒメルは消える。中身が変わるんだから、当たり前だろう。」

碧:「でも!ヒメルは生きてる!」

嬥:「生きてるさ。生きてなきゃ器として使えないだろう。」

碧:「つ、使えないって・・・、物みたいに・・・。」

嬥:「・・・(ため息)。あのね・・・、死んだ人間が、そっくりそのまま生き返ると思ってたのかい?神様じゃないんだ、そんなの無理だよ。私ができるのは、犠牲を払っても、その人の願いを叶えることだけだ。

・・・この子がここに来たのは、運命だったのかもしれないね。」

碧:「そんな・・・!」

嬥:「生き返って欲しいんだろう?」

碧:「っ!・・・。」

嬥:「・・・。」

碧:「・・・。」


(少しの間)


嬥:「さて、あとは代償の話だね。」

碧:「・・・。」

嬥:「そうだな・・・。ふむ・・・。」

碧:「・・・。」

嬥:「・・・ふふっ。じゃあ、お前の未来を頂こうか。」

碧:「・・・?未来?」

嬥:「そうだ。お前はこれから、この空色の店の店主になるんだ。私に変わってね。」

碧:「・・・え?」

嬥:「私はお前が送るはずだった未来を貰って、この店を出ていく。自由になるんだ!

ここでは歳を取らない代わりに、永遠に時が止まる。ネコの寿命は短いから、ここで2人で永遠に過ごせばいい。」

碧:「・・・え?時が止まる?」

嬥:「あぁ。私はこう見えて、619歳だよ。」

碧:「・・・え!?」

嬥:「姿形は、ある程度ここで時を過ごせば、成長が止まる。心配しなくていいよ、ここの住人になれば、不死が手に入るから。」

碧:「・・・死なないってこと?」

嬥:「ああ。」

碧:「ずっと朝日と一緒に?」

嬥:「まぁ、姿は変わってるけど、そうだね。

嬥:その変わり、永久にここの店主をやらなくてはならないけどね。」

碧:「それは・・・、どういうこと?」

嬥:「君は、私の代わりに、ここで永久に空色の店の店主をやるんだ。困っている人達が来たら、話を聞いて、助けてやるんだよ。」

碧:「でも、僕は嬥さんみたいに不思議な力も持ってないし、誰かを助けてあげることなんて・・・出来ないよ。」

嬥:「うーん、それは・・・。そうだね、よし、わかったよ。お前が慣れるまでは、私もここにちょくちょく足を運ぶよ。

力を持っていないお前の代わりに、不思議な道具を手に入れてきてやろう。慣れたら自分で取りに行くんだよ。最初だけだからね。

私はこれから自由になるんだ!好きな時に好きな場所に行き、好きなことをする。ああ、誉れ高い人生に幸あれ!」

碧:「・・・僕に、出来るのかな・・・。」

嬥:「出来るのかなではなくて、やるんだよ。

お友達を助けたいんだろう?生き返らせたいんだろう?お前のせいで死んだ友達を!」

碧:「っ!」

嬥:「だったら、やるしかないねぇ。何を犠牲にしてでも。」

碧:「・・・うん。」

嬥:「よし!話は決まった!

覚悟を決めた君に、後もう一つ、良い知らせがあるよ。私の力で、一つだけ、望む力を与えよう。一つだけだから、よく考えな。

私のように、他人(ひと)から奪う力を望むかい?それとも人に与えて自分は擦切れる力?なんでもいいよ!私からの最後のプレゼントさ!」

碧:「・・・。」

嬥:「ほら、何を望む?」

碧:「じゃ、じゃあ、ここへ来た人に寄り添える力を・・・。」

嬥:「寄り添える?」

碧:「ここへ来た人が、何に困って悩んでるか、僕が助けたことで、どう変わったのか、最後まで見届ける力をください。

僕は何も求めない。朝日と居れればそれでいい。

でも、ここへ助けを求めに来る人は、どうにかしたくて、どうにもできなくてここに来るんでしょう?だったら、ちゃんと笑顔になれたか、見届ける義務があると思う。僕はその力が欲しい。」

嬥:「・・・。」

碧:「・・・ダメですか?」

嬥:「いいや、できるよ。ただ、なんて言うか・・・。」

碧:「・・・?」

嬥:「欲がないなと思ってさ。」

碧:「欲?」

嬥:「相談者からお金を巻き上げて豪遊することもできるし、私みたいに何かを奪って自分のためにすることも出来る。

なのに、その人に寄り添いたいだなんて。・・・ははっ、恐れ入るよ。」

碧:「・・・でも嬥さんだって・・・。」

嬥:「ん?私がなんだい?」

碧:「嬥さんだって、ネコは寿命が短いから、僕にこの店を譲って、朝日と僕が、ずっと一緒にいられるようにしてくれたんでしょ?」

嬥:「!・・・何を言って・・・。」

碧:「嬥さん、見た目は怪しいけど、優しいから。」

嬥:「・・・はは・・・、はははっ・・・。」

碧:「・・・?」

嬥:「・・・そんな腑抜けたこと言ってると、困ってる人なんか助けられないよ!時には変えられない現実や、変えても意味の無い人間に出会ったりもする。その時、まだそんな腑抜けたことを言えるのかい?」

碧:「僕は、精一杯やるだけだよ。嬥さんから譲り受けたこの店で、嬥さんの代わりに。ヒメルの分まで。」

嬥:「・・・そうかい。」

碧:「うん。」

嬥:「・・・。」

碧:「・・・。」

嬥:「さぁ、始めよう。この店は、君に任せた。」

碧:「・・・はい!」



(しばらくの間)



朝日:「・・・ん・・・?」

碧:「・・・あ!あ(さひ!)」

嬥:「(被せて)おはよう、ヒメル。君はヒメルだ。分かるかい?」

朝日:「ひ・・・め、る?」

碧:「え?」

嬥:「意識ははっきりしているかい?君は今、生まれ直しをして、新しい人生を歩み始めたところだ。君の名前はヒメル。分かるかな?」

朝日:「ひ、める?・・・うん!分かるよ!私はヒメル!」

嬥:「前の人生のことは思い出せないだろうが、思い出すと混乱してしまう原因になるからね。無理に思い出そうとしない方がいい。分かるね?」

朝日:「うん!分かった!」

碧:「・・・。」

嬥:「さて、ここにいるこの子は、誰かわかるかい?」

碧:「あ・・・。」

朝日:「ん〜?・・・分かんない。」

嬥:「そうか。この子は空。この空色の店の店主だ。」

碧:「え!?」

嬥:「この子も生まれ直したばかりで、君と一緒だよ。」

朝日:「そうなんだ!よろしくね、空!」

碧:「あ、うん、よろしく・・・。」

嬥:「ヒメル、生まれ直しは、かなり体力を消耗する。あっちにミルクを用意しておいたから、いっぱい飲んでおいで。」

朝日:「うん!(駆け出す)」


(少しの間)


嬥:「これで良し。上手くいったね。」

碧:「ど、どういう事ですか?僕は碧です!」

嬥:「あ、あぁ、説明していなかったね。生まれ直しは、前の人生の記憶を残すと、失敗することがある。脳の容量が足りなくて、パンクすると言えば、分かりやすいかな?だから、極力前の記憶を遠ざける必要があるのさ。」

碧:「・・・。」

嬥:「君に関する記憶は、きっとあの子にとってかなりの容量を必要とする。だから君は今日から空と名乗ってくれ。ヒメルを守るために。」

碧:「っ・・・、分かりました。」

嬥:「よし、いい子だ。空とヒメル、我ながらいい名前を考えたもんだ!はっはっは!」

碧:「・・・先に言っておいて欲しい・・・。」

嬥:「ごめんよ。色々やることが多かったものだから。」


(ヒメルが戻ってくる)


朝日:「なぁに?二人で内緒話?ずる〜い!」

嬥:「そんなことはないさ。」

朝日:「ほんとに~?」

碧:「う、うん、内緒話なんてしてないよ?」

朝日:「じゃあなんの話をしていたの?」

碧:「ひ、秘密!」

朝日:「え〜?それを内緒話っていうんじゃないの〜?」

碧:「え?あ、あー、確かに・・・。」

朝日:「もう、空は〜!変なの〜!」

碧:「っ!あ・・・。」


(人間の時の朝日と被る)

朝日:『もう、碧は〜!』


碧:「あ・・・、あぁ・・・、ああぁぁ・・・。」

朝日:「え!?どうしたの?空?なんで泣くの?」

碧:「え・・・、・・・ううん、なんでもないよ・・・。」

嬥:「・・・。」

朝日:「何でもなくないじゃん!どこか痛いの?」

碧:「ううん、大丈夫。大丈夫だよ。

碧:・・・おかえり、ヒメル。」

朝日:「?・・・ただいま!空!」



(しばらくの間)



嬥:「(M)人は綺麗なだけではない。黒い部分や醜い部分も含めて、それが人なのだろう。

私は長年、醜い部分を多く見せられてきた。それ故に、綺麗な部分が見えなくなっていた。だから、奪うことになんの躊躇もなかった。だって、奪われても仕方の無いやつばかりだったから。

悩みや願い事を言われる度に、この人を苦しめるためには、なんの代償が効果的かを考えるようになっていた。

だけど、人には確かに綺麗な部分がある。それを教えてくれた2人だった。

私は旅に出る。自分を見つめ直し、人を見つめ直す旅に。この2人のように、綺麗な部分を持つ人に出会えるか、それとも奪われて当たり前の人に出会うのかは、分からないけれど・・・。」



(しばらくの間)



朝日:「空。誰か来たよ。」

碧:「・・・うん。」

朝日:「空?」

碧:「・・・うん。」

朝日:「もう!空は〜!聞いてるの〜?」

碧:「え?なんだいヒメル?」



END