【空色の店〜レナトゥス〜】
困ったり悩んだりしている時にだけ、あなたの前に現れる空色の店。
〚ご注意〛
・性別不問ですが、晴人と杏奈は変更不可です。
・キャスト様の性別は問いません。
・アドリブは、世界観を壊さない程度でお願いします。
・一人称、語尾等の変更はOKです。
・いじめ、暴力表現などがあります。苦手な方は回れ右してください。
・同シリーズ、カンドゥカルナの派生シナリオです。このお話だけでも楽しんで頂けると思いますが、カンドゥカルナも同時に読んで頂けると面白いかもしれません。
《登場人物》
①空(そら)
空色の店の店主。
性別不問
②ヒメル
空と一緒にいるネコ。
性別不問
③松田晴人(まつだはると)(男性)
自分の力で未来を切り開いていきたい、前向きな中学生。モテる。
④田邉杏奈(たなべあんな)(女性)
本好きで、笑顔が可愛い中学生。
-------❁ ❁ ❁-----ここから本編-----❁ ❁ ❁-------
ヒメル:「(N)あなたが住み慣れている街に、ふと、見覚えのない路地があったら・・・。
心のままに覗いて見てください。
きっとそこには、あなたが望んでいるものがある・・・かもしれません。」
(少しの間)
晴人:「(M)最近ネットでまことしやかに流れている、ある噂。
『困ったり悩んだりしている時にだけ、あなたの前に現れる空色のお店。見つけたら願い事が叶うらしい。』
俺は、そんなお店に頼りたいと思ったことは無い。自分の力で、どこまでやれるか試したいんだ。」
晴人:「俺は自分自身の手で、未来を切り開いていきたい。」
(少しの間)
晴人:「(M)最近、気になっている子がいる。
同じクラスの田邉杏奈(たなべあんな)。
物静かで、あんまり目立つタイプではないけど、優しくて、笑顔が可愛い女の子だ。
初めてまともに田邉と話したあの日。あの日から、つい目で追うようになっていた。」
(回想)
晴人:「あーぁ、汗だくだ・・・。腹も減ったし・・・。」
晴人:「(M)サッカー部に所属している俺は、部活終わりに、忘れ物を取りに教室に向かっていた。」
晴人:(さっさと取って、帰ろ。)
晴人:「(M)夕暮れの教室に入ると、窓辺の席に誰かが座っていた。どうやら本を読んでいるらしい。逆光で、誰なのかまでは分からなかった。」
(晴人、電気をつける)
杏奈:「(電気がついてビックリする)っ!」
晴人:「あ、ごめん、びっくりさせちゃったかな?」
杏奈:「え?あ、ごめんなさい、大丈夫です!」
晴人:「何やってんの?・・・本?」
杏奈:「あ、うん、本読んでたら、没頭しちゃって・・・。」
晴人:「へぇ、俺、本はたまにしか読まないけど、そんなに面白い本なんだ。なんて本?」
杏奈:「『川のほとりで』って言う、ミステリー小説です。
(熱を持って語る)川のほとりにあるロッジで殺人事件が起こるんですけど、そこで偶然居合わせた新人刑事が、みんなを助けるために奮闘するっていう小説で、今まさにその刑事が犯人に襲われて窮地に立たされてて、これからどうやって・・・って、あ、ごめんなさい!
私ったら、本の事になると、周りが見えなくなっちゃって・・・、ほんとにごめんなさい!!」
晴人:「(あっけに取られる)・・・。
・・・ははっ、はははははっ!」
杏奈:「?」
晴人:「いや、悪い!田邉とはあんまり話したこと無かったけど、お前面白いな!ははっ!」
杏奈:「お、おもしろい?・・・かな?」
晴人:「うん、おもしろい!
面白いついでに、その本、読み終わったら俺に貸してくれない?読んでみたい。」
杏奈:「え?ほんとに?」
晴人:「うん。」
杏奈:「うん!喜んで!(満面の笑み)」
晴人:「っ!」
杏奈:「・・・ん?どうしたの?」
晴人:「あ、いや、・・・なんでもない。」
(現在)
晴人:「(M)その時の笑顔が、可愛くて、眩しくて、いつの間にか、特別になっていた。」
(少しの間)
晴人:「(M)学校からの帰り道。いつもの通学路を歩いていると、ふと違和感がして立ち止まる。
毎日通っていて、歩き慣れた道のはずなのに・・・。」
晴人:(あれ?こんな所に、道なんてあったっけ?
奥に何があるんだろう・・・。
知らない道を見つけると、なんか冒険みたいでワクワクするな♪
・・・童心に返って、探検してみるか!)
晴人:「(M)奥に進むと、おそらく突き当たり・・・、だと思う。
そこには、空が拡がっていた。
一面の空の中に、ポツンと、ステンドグラスのはまったドアだけが浮いている。
いや、浮いているのではない。そこには確かに建物があるのだが、建物の壁面が、空と融合しているのだ。
空とおなじ模様で、どこが境目かがよく分からない。」
晴人:「こ、ここって・・・。まさか、噂になってる空色の店・・・か?」
(しばらくの間)
(ヒメル、体を起こす)
ヒメル:「・・・空~、誰か来るよ。」
空:「・・・そうだね。」
ヒメル:「お客様かな?」
空:「そうだろうね。」
ヒメル:「・・・。」
空:「・・・。」
ヒメル:「空、何してるの?」
空:「何をしていると思う?」
ヒメル:「(暫し考える)・・・あ!今日のティータイム?」
空:「うん、大正解。」
ヒメル:「わぁ♪今日はなぁに?」
空:「今日はね、スッキリさっぱりする飲み物だよ。」
ヒメル:「わぁ〜、なんだろなんだろ?」
空:「これを使うんだよ。」
ヒメル:「・・・え?レモン?」
空:「うん、これをまずは半分に切ってっと・・・。」
ヒメル:「うんうん!」
空:「まずこっち半分は果汁を絞る。」
ヒメル:「ひゃ~!口がキュッとなるね。」
空:「あはは、ヒメルはレモンは苦手かい?」
ヒメル:「うーん、苦手ではないけど、そのまま食べるとすっぱくて口がキュッてなるじゃん?」
空:「うん。そのすっぱさが合う飲み物や食べ物が沢山あるよね。」
ヒメル:「わかる!おいしいよね!
でもなんでか分からないけど、食べてないのに、レモンを見ただけで口がキュッてなるよね?
今、そんな感じ!」
空:「ははっ、ヒメル、それはね、俗に言う『パブロフの犬』と呼ばれる条件反射だよ。」
ヒメル:「パブロフの犬?」
空:「うん、昔外国で行われた実験でね、まず、犬にベルを鳴らしてからご飯をあげる。それを続けていると、犬はベルを鳴らしただけでご飯をもらえると思ってヨダレを出すようになったそうだよ。
そういう生理現象を、実験者のパブロフの名前をとって、パブロフの犬と言うんだ。」
ヒメル:「・・・犬なの?」
空:「うん、犬だよ。」
ヒメル:「わ、私はネコだもん!犬じゃないよ!」
空:「そうだね。・・・ふふっ。」
ヒメル:「何笑ってるの!!」
空:「わ、笑ってないよ・・・ふっ。」
ヒメル:「もう!犬と一緒にしないでよ!私は賢いネコなんだからね!」
空:「うんうん、ヒメルは賢いネコだね。
・・・ははっ!」
ヒメル:「もぉ〜〜〜〜〜!笑ってないで、さっさと続き作る!」
空:「ははっ、はいはい。
さて、レモン果汁を絞れたら、コップに冷えた麦茶を注いで・・・。」
ヒメル:「え!?麦茶?レモンに・・・麦茶?」
空:「そうだよ。」
ヒメル:「・・・合う?」
空:「合うよ。
麦茶に少しのハチミツとレモン果汁を入れて混ぜる。
そして飾りにレモンを入れて、出来上がり。」
ヒメル:「・・・これだけ?」
空:「うん、これだけ。
さ、飲んでみてよ。」
ヒメル:「え~・・・?本当においしい?」
空:「飲んでみて。」
ヒメル:「(飲む)・・・っ!サッパリしてておいしい!
合わないと思ってたのに、ハチミツがいい仕事してるぅ!」
空:「喜んでくれて嬉しいよ。
さて、準備もできた事だし、お客様のご来店をお待ちしようかな。」
ヒメル:「そうだね!今日のお客様は、好奇心旺盛で、自分から来てくれそうだね!」
(しばらくの間)
(ドアが開く)
空:「いらっしゃいませ。」
晴人:「あ、はい、こんにちは・・・。」
空:「どうぞ、宜しければこちらに。」
晴人:「は、はい。
あの、ここって、お店なんですか?」
空:「まぁ、お店というか、お悩みを聞くところというか、お茶を飲むところとも言えるし、・・・なんだろうね?」
ヒメル:「もう!空ったら!質問に質問で返しちゃダメでしょ!」
晴人:「!」
空:「だったらヒメルはここが何か説明できるかい?」
ヒメル:「うーんとね、・・・ここは、空色の店だよ!」
晴人:「え!?やっぱり、ここは空色の店なの!?あの噂の!?
っていうか、ネコが、しゃ、しゃべってる!?」
ヒメル:「そうだよ!私はお話できる、賢いネコなのです!えっへん!」
晴人:「へぇ・・・、電池で動いてるわけじゃないよな?」
(ヒメルをまさぐる)
ヒメル:「え?あ、ちょっと、あひゃ!ちょっ、ちょっと!ひゃはははっ!やめてよ!」
晴人:「・・・うーん、電池を入れるところはない、か。」
ヒメル:「突然なんてことするの!レディに失礼じゃない!」
晴人:「あ、ごめんごめん!・・・えーと・・・。」
ヒメル:「ヒメルだよ!よろしくね!
あなたは?」
晴人:「俺は、松田晴人(まつだはると)。よろしくな。」
ヒメル:「晴人くんだね!
こっちは店主の空。」
空:「空です。
さぁさ、立ち話もなんだから、こっちに座ってお茶でも飲みましょう。
ちょうど美味しいレモン麦茶を入れたところなんです。」
晴人:「え?・・・麦茶に・・・レモン?」
ヒメル:「あ!知らないんだ!麦茶にレモンは、とってもおいしいんだから!」
空:「百聞は一見にしかず!皆で、お茶にしましょう。」
(少しの間)
ヒメル:「晴人くんはさ、何かに悩んでたり、困ってたりする事はなぁい?」
晴人:「え?悩んだり、困ってる事?」
空:「この店はね、悩んだり困っていたりする人のお話を聞いて、一緒に解決するためにあるお店なんです。」
晴人:「あぁ・・・、確か同じような事がネットにも書いてあったな。何でも願いを叶えてくれる、空色のお店っていうのがあるらしいって。」
ヒメル:「そうだよ!さぁ!なんでも言ってみて!」
晴人:「んー・・・、えーと・・・、特にないけど・・・。」
ヒメル:「え!?」
空:「・・・本当に?」
晴人:「あー、・・・うん。」
ヒメル:「でも、この店には、悩んでる人しか・・・。
晴人くん、よぉぉぉく考えてみて?何かあるでしょ?」
晴人:「えーと・・・、いや、特にないけど。
強いて言うなら、もっとサッカーが上手くなりたいけど、これは自分で努力して培わなきゃいけないものだし。
今困っている事は、特にないなぁ。」
ヒメル:「えーと、・・・空?」
空:「・・・うーん、まぁ、こんな時もあるにはあるけど・・・。」
ヒメル:「あるの!?」
空:「(考え込む)・・・、うーん。・・・まぁでも、現状、困っている事がないのは良い事だよ。」
晴人:「・・・なんか、ごめんなさい・・・。」
空:「いいえ、いいんです。気にしないでくださいね。悩みがないのはいい事なんですから。
さぁ、こうして出会えたのも何かの縁だし、今は、一緒にお茶をしながら、仲を深めるとしましょう。」
ヒメル:「あ、いいね!賛成!!」
晴人:「ははっ!おもしろい人達だな!
俺、この店見つけられてラッキーだったよ。」
ヒメル:「私も、晴人くんと出会えて楽しいよ!仲良くしてね!」
晴人:「ああ、よろしくな!」
(しばらくの間)
ヒメル:「へ〜、晴人くん、好きな子がいるんだ。」
晴人:「好きな子っていうか・・・、まぁ、気になってる子はいるよ。」
ヒメル:「どんな子?」
晴人:「本好きで、本の事になるとめちゃくちゃ饒舌になる子。」
ヒメル:「へ〜!」
晴人:「それで・・・、本の事語ってる時の笑顔が、めちゃくちゃ可愛いんだ。」
ヒメル:「そうなんだ!」
空:「良い笑顔ですね。」
晴人:「え?」
空:「その子の事を話している時の晴人くん、良い顔してますよ。」
ヒメル:「うん!優しい顔してる!」
晴人:「そ、そうかな?」
ヒメル:「そうだよ!」
空:「その子の事、大事なんですね。」
晴人:「・・・うん、そうかもしれない・・・。」
ヒメル:「その気持ち、大事にしてね!」
晴人:「うん、大事にするよ。」
空:「さて、そろそろ夕暮れですね。
晴人くんも帰らないと、親御さんが心配しますよ。」
ヒメル:「もうそんな時間?時間が過ぎるのはあっという間だね。」
晴人:「レモン麦茶、ご馳走様でした。美味しかったです。・・・意外と。」
ヒメル:「でしょ!」
空:「それは良かった。また遊びに来てくださいね。」
晴人:「うん!また来るよ!」
空:「・・・それと、晴人くん。もし、万が一、自分では解決出来ないような事が起こったら、ここを思い出してくださいね。」
ヒメル:「そうだね!きっと助けに行くからね!だって友達でしょ?私達!」
晴人:「あはは!うん、その時はお願いするよ!頼りにしてる!」
空:「絶対ですよ。」
晴人:「わかったよ!心配性だなぁ、空さんは。
じゃあ、また!」
ヒメル:「うん!またね!」
晴人:「(M)そう言って二人に視線を向けた瞬間、俺は元の通学路にいた。
あまりに突然で、夢を見ていたのかと、一瞬戸惑う。
だけど、口の中の爽やかなレモンの風味が、夢ではないことを物語っていた。」
晴人:「良い人達だったな。また会えるといいな。」
(翌日)
杏奈:「松田くん、おはよう。」
晴人:「っ!あ、あぁ、田邉・・・、おはよう。」
杏奈:「?どうかしたの?」
晴人:「いや、なんでもない。」
杏奈:「ふふっ、変な松田くん。」
晴人:「・・・は、ははっ。」
晴人:(な、なんだこれ、昨日空色の店で田邉の事、空さん達に話したからかな・・・。心臓がバクバク鳴る・・・。)
杏奈:「じゃあ私と友達と待ち合わせてるから、先に行くね。また学校で。」
晴人:「あ、あぁ!学校でな!」
杏奈:「うん、またね。
あ、翼~!(友達を見つけて走り去る)」
晴人:(や、やべぇ・・・。あいつ、あんなにかわいかったか?
大丈夫か、俺・・・。)
(少しの間・放課後の教室)
杏奈:「あ、松田くん。」
晴人:「悪い!遅くなった!」
杏奈:「ううん、本読んでたから、大丈夫だよ。」
晴人:「そっか。待っててくれてありがとな。」
杏奈:「ううん、気にしないで。
そんな事より、今日の本なんだけどね、この前読み終わって、おもしろかったからぜひ松田くんにも読んで欲しくて。
これなんだけど・・・。」
晴人:「・・・。(ボーッと杏奈の顔を見ていて、聞いてない)」
晴人:(やっぱり、かわいいな・・・。)
杏奈:「(本の話に夢中)松田くん、ミステリー好きでしょ?だから、絶対ハマると思うんだぁ。」
晴人:(・・・この時間が幸せだな・・・。)
杏奈:「実はこれ、シリーズで出ててね。おもしろかったら、続編も貸せるから読んでみてほしいの。」
晴人:「(つぶやく)・・・好きだな・・・。」
杏奈:「・・・え?」
晴人:「・・・え?」
杏奈:「・・・。」
晴人:「え!?俺、何か言ってた!?」
杏奈:「えと・・・、うん。
『好きだな』って・・・。」
晴人:「あ・・・。」
杏奈:「・・・あ、この本の事?松田くん、読んだことあった?」
晴人:「あ、いや、えっと・・・。」
杏奈:「違う本の方がいいかな?」
晴人:「あー・・・、いや、違うんだ。」
杏奈:「・・・え?」
晴人:「・・・俺が好きなのは・・・、田邉だよ。」
杏奈:「・・・・・・え!?」
晴人:「驚かせてごめん。俺、田邉の事が好きなんだ。良かったら、俺と付き合ってください!」
杏奈:「え・・・えぇ!?
・・・・・・ほんとに?」
晴人:「・・・ほんとだよ。ずっと好きだった・・・。」
杏奈:「あ・・・。」
晴人:「だ、だめかな?」
杏奈:「・・・ううん、うれしい。
・・・私も、松田くんの事が好きです。」
晴人:「!?
ほんとに!?」
杏奈:「・・・うん。へへっ。」
晴人:「や・・・、やったぁぁぁ!!」
(晴人、杏奈を勢いよく抱きしめる)
杏奈:「きゃ!?」
晴人:「あ!ご、ごめん!!」
(晴人、杏奈を勢いよく離す)
杏奈:「・・・。」
晴人:「・・・。」
(目を見合わせて、吹き出す)
杏奈:「(同時に)っぷ!あははははは!」
晴人:「(同時に)っぷ!あははははは!」
晴人:「これから、よろしくな。」
杏奈:「うん、こちらこそよろしくお願いします。」
(少しの間)
杏奈:「・・・松田くん、あの、一つお願いがあるの。」
晴人:「ん?何?」
杏奈:「私達が付き合っている事は、皆には内緒にしてほしいの。」
晴人:「え?なんで?」
杏奈:「松田くん、女子に人気あるんだよ?私なんかと付き合ってるって噂になったら、騒ぎになるもん。」
晴人:「騒ぎ?ははっ、やっぱり田邉はおもしろいな。」
杏奈:「もう、笑い事じゃないんだよ?
松田くんは、学年一の美女、美空さんと付き合ってるって言う噂もあるくらいだし。」
晴人:「美空?
確かに同じ学級委員同士、よく話はするけど・・・、でもそれだけで、付き合ってないし。
・・・俺が好きなのは、田邉だし。」
杏奈:「っ!
・・・うん。(照れる)
でも、ね?内緒にして?」
晴人:「うーん、わかった!じゃあ、田邉も俺のお願い事、一つ聞いてよ。」
杏奈:「え?どんな願い事?私に叶えられるかな?」
晴人:「田邉にしか叶えられないんだ。
俺の事、・・・『晴人』って呼んでよ。」
杏奈:「え!?あ・・・えと・・・。」
晴人:「・・・。(待つ)」
杏奈:「は、は、は、晴人!・・・くん。」
晴人:「・・・ははっ!まぁ、今はそれでいいや!」
杏奈:「・・・へへ・・・。(照れる)」
晴人:「ありがとな、・・・杏奈。」
杏奈:「っ!あ、えっと・・・うん。(照れる)」
(しばらくの間)
ヒメル:「ねぇ~、空~。
晴人くん、元気かなぁ?」
空:「・・・晴人くん?」
ヒメル:「うん!・・・空?まさか、また忘れたの?」
空:「え?あー・・・、まさか、忘れてないよ。」
ヒメル:「・・・ほんとに?」
空:「本当だよ!
・・・えっと、お客様・・・だよね?」
ヒメル:「お客様だけど・・・。」
空:「ほら!当たった!」
ヒメル:「『当たった!』って事は、やっぱり忘れてるんじゃない!」
空:「あ!・・・へへへ・・、・・・誰だったかな?」
ヒメル:「ほんとにもう!
この前、お茶しに来てくれたじゃない!三人で、サッカーの話とか、晴人くんの好きな子の話とかで盛り上がったでしょ?」
空:「・・・うーん、そうだったような・・・。」
ヒメル:「空はー、もう!すぐ忘れるんだから!」
空:「ごめんごめん。」
ヒメル:「でも、不思議だったよね。空色のお店を見つける事が出来るのは、悩んだり困ったりしている人だけだと思ってたのに、晴人くんはただお茶しに来ただけなんて。」
空:「っ!
・・・・・・その時、晴人くんは悩み事はないって言ってたの?」
ヒメル:「え?うん。サッカーが上手くなりたいけど、それは自分で努力しなきゃいけない事だしって、言ってた。
それ以外も特に言ってなかったから、ただお茶しておしゃべりしただけで、帰って行ったよ?」
空:「ーーー!!
なんでそんな大事な事を忘れるんだ、僕は!」
ヒメル:「え?なに?どうしたの?」
空:「ヒメル、空色の店にはね、危機察知能力のようなものが備わっているんだ。
今はまだ何もなくても、その人にとって、何か危険が迫っていたり、取り返しのつかない事が待っている時、稀にだけど、事前に僕達に引き合わせてくれる事がある。」
ヒメル:「・・・え?それじゃ・・・。」
空:「・・・晴人くんに、危険が迫っているかもしれない。」
ヒメル:「っ!そんな!!じゃあすぐにでも助けに行こう!」
空:「・・・それは、できないんだ。」
ヒメル:「なんで!?」
空:「空色の店は、悩んだり困ったりしている人のもとに訪れることが出来る。だから、晴人くんが僕達に頼る必要はないと思っている限りは、きっと店は動かない。」
ヒメル:「だって!せっかく引き合わせてくれたのに!私達なら、助けることが出来るかもしれないのに!」
空:「・・・。
でも、晴人くんの頭の中に、僕達という存在は残ってるはずだ。晴人くんが助けを求めた時に、すぐにでも動けるよう、準備をしよう。」
ヒメル:「!わかった!」
空:「まずは現状を把握したい。晴人くんがあれからどうしてるのか、確認しよう。
・・・・・・。(悩む)
(晴人の事をまだ思い出せない苦悩)っ!なんで僕の頭はこうなんだろう・・・。」
ヒメル:「そこの口大きめのグラス!それで、レモン麦茶を飲んでたよ!」
空:「!!ヒメル・・・、ありがとう。」
ヒメル:「こんなのなんでもないよ!早く、空!」
空:「ああ・・・。」
ヒメル:「(M)空には、他人(ひと)の人生を覗き見できる力がある。
ただ、誰でも彼でも覗き見できる訳ではなくて、一度会って、一緒に飲み物を飲んだ人限定で。
覗き見する時は、その時その人が飲んだカップで、その人が飲んだ同じ飲み物を準備しなくてはならない。
その同じカップに、同じ飲み物を入れた時だけ、水面に映像が映し出されるのだ。」
空:「間に合うといいんだけど・・・。」
ヒメル:「きっと間に合うよ!」
(回想・朝の教室)
晴人:「(クラスメイトに向かって)おはよう!」
晴人:(今日も杏奈はかわいいな。付き合ってまだ一週間。これからもっと二人の時間を・・・)
(突然、ガタッと大きな音を立てて、隣の席の子が立ち上がって去っていく)
晴人:「っ!?え?なに?」
晴人:(びっくりした・・・。なんだ?
晴人:あれは確か、杏奈とも仲がいい子だったよな・・・。何かあったのかな?)
(少しの間・放課後)
晴人:「(M)その日の放課後、俺は部活の友人達から、杏奈との事を冷やかされた。
どこからバレたんだ?という焦りと、これでコソコソしなくてすむ、という安堵で、『いや、まぁ・・・。』なんて曖昧な態度を取ってしまった。」
(少しの間・部活後)
晴人:(おかしいなぁ・・・、どこでバレたんだろ?
でもこれで、コソコソしなくて済むし、堂々と杏奈の隣を歩ける。それは嬉しいな。へへっ。
後は、杏奈がどう思ってるかだよな。教室で待ってるはずだから、聞いてみよう。)
(晴人、教室に入る。)
晴人:「杏奈ー、待たせてごめん。」
杏奈:「っ!晴人くん!?」
晴人:「遅くなって・・・。えっ!?杏奈!?」
晴人:「(M)電気の付いていない教室。杏奈は俺を待っていてくれた。
全身ずぶ濡れの状態で・・・。
着替えようとしていたのか、手にはジャージを持っている。」
晴人:「どうしたんだ!?ずぶ濡れじゃないか!」
杏奈:「あ・・・、ええと、うん・・・。」
晴人:「とにかく体拭いて!俺タオル持ってるから!部活のやつだけど、まだ使ってないのあるから!」
杏奈:「あ、うん・・・、ありがとう・・・。」
晴人:「・・・どうしたんだよ・・・。」
杏奈:「えっと・・・、その・・・、あ、花壇にね、水をあげようと思ったら、ホースが暴れちゃって!・・・へへ・・・。」
晴人:「・・・ほんとか?」
杏奈:「・・・うん。」
晴人:「なんで花壇に水あげようと思ったんだよ?いつもなら、用務員さんがやってくれるだろ?」
杏奈:「・・・えーと、・・・たまたま、用務員さんが水あげてるの見えたから、手伝おうと思って・・・。」
晴人:「手伝おうと思って?杏奈がずぶ濡れになったのに、用務員さんは杏奈を放ったらかしにしたのか?」
杏奈:「あ!違うの!・・・違うの・・・。」
晴人:「・・・・・・・・・誰にやられたんだ?」
杏奈:「・・・え?」
晴人:「杏奈が、俺と付き合ってる事隠したいって言った時、俺は、杏奈は冷やかされるのが嫌なんだろうなって思ってた。
でも・・・、こういう事されるかもって不安もあったんだろ?」
杏奈:「それは・・・。」
晴人:「やっぱり、付き合うって言うのは、目立つんだろうな・・・。それが気に食わないヤツもいる・・・。」
杏奈:「・・・そうじゃないの。皆は『私が』晴人くんと付き合うのが嫌なんだと思う。晴人くんとつり合ってないって思われたんだろうな・・・。」
晴人:「そんなこと!」
杏奈:「(食い気味に)そんなことあるの。だから、美空さんは、付き合ってるって噂が流れた時でも、こういう事されてなかったでしょ?
原因は、私にあるの・・・。」
晴人:「・・・。」
杏奈:「・・・。」
晴人:「・・・原因は、杏奈にあるんじゃない。こういう事するヤツが悪いだけだ。」
杏奈:「っ!・・・。」
晴人:「杏奈。明日からは、出来るだけ一緒にいよう。」
杏奈:「・・・え?」
晴人:「付き合ってることはもうバレてるし、もう隠す意味もない。
明日からは、俺が出来るだけそばにいて、杏奈を守るよ。」
杏奈:「・・・晴人くん・・・。」
晴人:「明日の朝、家まで迎えに行くから。家で待ってて。」
杏奈:「そんな迷惑かけられないよ。晴人くんの家と私の家、反対方向(なんだよ?)」
晴人:「(被せ気味に)いいから。そんな事、いいから。俺は杏奈と一緒にいられらるの嬉しいし、一石二鳥だよ。気にすんな。」
杏奈:「・・・。」
晴人:「な?」
杏奈:「・・・うん。」
晴人:「よし!明日は7時半に迎えに行くから。」
杏奈:「・・・晴人くん・・・。」
晴人:「何?」
杏奈:「・・・ごめんね。」
晴人:「杏奈が謝ることじゃない。」
杏奈:「・・・うん。
・・・晴人くん、ありがとう。」
晴人:「うん。どういたしまして。」
(少しの間)
晴人:「しかし、どこからバレたんだろうな。俺は誰にも言ってないのに。
杏奈は心当たりあるか?」
杏奈:「っ!・・・・・・。」
晴人:「杏奈?」
杏奈:「(ボソボソと)・・・あの、・・・いや、でも・・・。そんな事あるはずないよね・・・。・・・きっと違う・・・。」
晴人:「どうした?」
杏奈:「!・・・ううん、なんでもない。」
晴人:「・・・そっか。何かあったら言えよ?」
杏奈:「うん、ありがとう。」
晴人:「さ、今日は帰ろう。
俺、廊下に出てるから、着替えて出てこいよ?」
杏奈:「うん。ありがとう。」
(晴人、廊下に出る。少しの間)
杏奈:「・・・違うよね?翼・・・。」
(少しの間)
杏奈:「(M)晴人くんには言えなかったけれど・・・、実は私は、親友にだけは教えてしまっていた。親友の翼にだけは・・・。
朝、翼に呼び止められて、突然聞かれた。
杏奈:『晴人くんと付き合ってるって、本当?』
杏奈:私は突然の問いかけに、つい、『うん』とうなづいてしまった。
晴人くんには、私から内緒にしてとお願いしていたのに、翼にはつい本音が出てしまう。
それでも、翼にだけは、嘘をつきたくないという気持ちが、するりと言葉を出してしまった。
翼なら、一緒に喜んでくれると思った。だけど・・・
杏奈:私の返事に、一瞬顔を強ばらせて、逃げるように走って行ってしまった翼。」
杏奈:「・・・翼・・・。
・・・翼じゃないよね?・・・。
翼がそんな事するはずないもん。
ね、そうだよね・・・、翼・・・。」
(現在・しばらくの間)
ヒメル:「・・・杏奈ちゃん、ずぶ濡れだったね・・・。」
空:「あぁ・・・。」
ヒメル:「ひどいことする人間っているんだね。」
空:「・・・良い人間ばかりじゃないさ。それは、分かっていたことだろう?」
ヒメル:「・・・それは、そうだけどさ。」
空:「人は、自分の欲求や快楽に忠実になればなるほど、自分勝手になれるものなんだ。」
ヒメル:「・・・うん。
でもひどいよ!杏奈ちゃんは何も悪くないじゃない・・・。
ただ、好きな人と一緒にいたいと思ってるだけじゃない。」
空:「そうだね。」
ヒメル:「晴人くんだって、杏奈ちゃんを好きなだけなのに・・・。」
空:「うん・・・。この後、何事もなければいいけど・・・。」
ヒメル:「続きを見てみよう!早くしないと、取り返しのつかないことになっちゃうかもしれないんでしょ!?」
空:「あぁ・・・。見てみよう。」
(回想・しばらくの間)
晴人:「(M)翌日からも、杏奈への執拗な嫌がらせが続いた。
教科書を破られたり、上靴を捨てられたり、制服を切られたり・・・。
守ろうとしても、なかなか上手くいかなかった。
体育の時や、トイレ、部活の時など、どうしても俺が一緒にいられない時を狙って、杏奈へ直接攻撃されることも多かった。
水をかけられたり、ボールをぶつけられたり・・・。
俺は部活の友人達にも手伝ってもらい、杏奈に何かあったら、知らせてくれるように頼んでいた。
それでも、杏奈を完全に守ることは難しかった。」
杏奈:「何かをされる時ね、する側の人は、決まって笑ってるの。
何が楽しいのかな・・・。
私が苦しむのが、嬉しいのかな・・・。」
晴人:「(M)杏奈がポツリと言う。
杏奈の目が、空(くう)をさまよう。
杏奈の笑顔を、しばらく見ていないような気がする。
強がって無理をしている、張り付けた笑顔だけが、精一杯の杏奈の笑顔だ。」
晴人:「・・・離れた方がいいのかな・・・。」
杏奈:「・・・え?」
晴人:「俺はずっと杏奈を守っていきたい。
晴人:・・・でも、俺が離れた方が、杏奈は平穏に過ごせるかな・・・?」
杏奈:「・・・・・・。」
晴人:「・・・・・・。」
杏奈:「・・・そうかもしれない・・・。」
晴人:「っ・・・・・・。」
杏奈:「けど、私、晴人くんのこと、好きだよ?」
晴人:「っ!・・・俺も、好きだよ!」
杏奈:「うん。」
晴人:「こんなことに、負けたくない。」
杏奈:「うん。私も負けたくない。」
晴人:「俺、もっと頑張るよ。杏奈はなるべく一人にならないようにして。」
杏奈:「うん。」
晴人:「しばらく部活休めるように、話してくる。」
杏奈:「うん、ありがとう。・・・ごめんね。」
晴人:「謝らなくていいから。」
杏奈:「・・・うん。」
(教室・しばらくの間)
晴人:(説明するのに、時間かかったな・・・。杏奈は・・・?)
晴人:「(M)教室を見回して杏奈を探す。姿が見当たらない。」
晴人:「杏奈?・・・杏奈!?」
晴人:「(M)俺は学校中探し回った。あんな話をした後に、杏奈が一人で帰るはずがない。胸騒ぎがした。」
晴人:(俺はなんで杏奈を一人で教室に残したんだ!バカかっ!くそっ!)
晴人:「(M)その時、クラスのグループLINEに画像が貼られた。それを見た時、俺は背筋が凍り、怒りが抑えられなかった。」
晴人:「(M)『お楽しみ中』と書かれたメッセージ。
画像には、複数の生徒に囲まれた杏奈の姿。
杏奈は目隠しをされていて、手を後ろ手に縛られているようだった。
続いて、杏奈の顔のアップが貼られた。
目は隠されているが、頬に泣きじゃくったあとがあった。髪は乱れ、顔は真っ青だ。」
晴人:「ーーーーーーーー!!(声にならない怒り)」
(晴人、走り出す)
晴人:(くそっ!くそっ!あれは体育用具室だ!毎日行ってるからわかる!あの壁の落書きは絶対だ!)
晴人:「(M)その落書きに見覚えがあった。サッカー部の先輩が、卒業する時にこっそり書いていたものだ。
後輩への激励の言葉。『走れ!勝利に向かって!』。サッカーボールの絵とともに書かれたそれに、突き動かされるように俺は全力で走った。」
(しばらくの間・体育用具室)
(晴人、扉を勢いよく開ける)
晴人:「っ!」
晴人:「(M)そこには、10人ほどの生徒がいた。男も女も入り交じって、何事かとこっちを見る。
俺は杏奈を探す。
晴人:杏奈がいたであろう所には、大柄の男子生徒がいた。・・・杏奈に覆いかぶさっていた・・・。」
晴人:「・・・ああああああああぁぁぁああぁぁぁぁあっ!!」
晴人:「(M)俺は手近にあったバットを持ち、怒りに任せてバットを降った。」
(現在)
ヒメル:「もう!!見てられないよぉぉぉ!!」
空:「・・・っ。」
ヒメル:「杏奈ちゃん!晴人くん!」
空:「・・・ヒメル。ヒメルは庭で日向ぼっこでもしておいで。ヒメルは見ない方がいい・・・。」
ヒメル:「・・・え?だって空は?」
空:「僕は・・・、目を背けないでちゃんと見るよ。ちゃんと見ないと、晴人くんが助けを求めてきた時に、助けられないからね。」
ヒメル:「あ・・・。」
空:「僕は、助けたいんだ・・・。間に合うなら・・・。」
ヒメル:「・・・うん。」
空:「僕は大丈夫だから。ヒメルは(ゆっくりくつろいでて)」
ヒメル:「(被せて)ううん!私もちゃんと見る。
ごめん、空。そうだよね。一番辛いのは、杏奈ちゃんと晴人くんだもんね。
私たちがしっかりしなきゃ、ダメだよね。」
空:「・・・うん。
でもね、ヒメル。僕はヒメルのことが大好きだから、ヒメルにも傷ついて欲しくはないんだ。だから(大丈夫だよ)」
ヒメル:「(同時に被せるように)『大丈夫』って空は言うんだよね。自分だって辛いくせに・・・。」
空:「・・・。」
ヒメル:「私たちは、二人で一人前だから。
私もちゃんと見る。それで、空と一緒に二人を助ける!」
空:「・・・うん。ありがとう、ヒメル。」
空:「・・・晴人くん、・・・思い出して、僕達のことを。晴人くんとこの店の道を繋いで・・・。」
(回想・少しの間)
晴人:「(M)あれからの事は、よく覚えていない。
騒ぎを聞き付けて、先生達が駆けつけたようだったが、ただ俺が突然暴れだしたということになったようだ。
体育用具室にいた生徒全員が、口裏を合わせたんだと思う。
クラスのグループLINEの写真やメッセージも、いつの間にか消されていた。
決定的だったのは、杏奈が発したあの一言。
何も写してない空虚な、でも泣いて腫れぼったくなった目で、杏奈はボソリと言った。」
杏奈:「・・・何も・・・何もされてません。」
晴人:「(M)そのことだけは、まるで他人事のように、映画のワンシーンのように、頭の中で繰り返し繰り返し流れている。
肩を震わせながら、無表情で、そう呟いた杏奈を見た時、『あぁ、俺は助けられなかったんだ』と悟った。
杏奈の心は、きっと粉々になってしまった。
杏奈のあのかわいい笑顔を、大好きな笑顔を、もう俺は見ることが出来ないのかもしれない・・・。」
晴人:「(M)俺は停学処分になった。
学校側が、穏便にと処理した結果だ。
明日、俺は学校にいない。杏奈を守れない。・・・すでに守れていなかったのだけど・・・。」
(少しの間・次の日の朝)
晴人:(学校に行こう!停学がなんだ!今杏奈の傍にいなくて、何が守ってやるだ!
・・・何も出来ないかもしれないけど・・・、でも・・・、それでも・・・、傍にいたい・・・。
・・・・・・俺になにができるだろう・・・。考えろ・・・。諦めるな・・・。諦めたくないんだ・・・。でも・・・どうしたら・・・。)
晴人:「(M)学校への道すがら、早足で歩いていると、目の端に、見たことがある路地が映った。」
晴人:「・・・あ!」
晴人:「(M)それは紛れもなく、希望へと続く道だった。」
(しばらくの間)
ヒメル:「っ!空!」
空:「あぁ、準備しよう。」
(少しの間)
(ドアが開く音)
ヒメル:「(晴人に駆け寄りながら)晴人くん!」
空:「さぁ、こちらに。」
晴人:「あの・・・。」
ヒメル:「大丈夫!分かってるから!何も言わないで!」
晴人:「・・・っ!・・・あ・・・ううっ・・・。」
ヒメル:「辛かったね!頑張ったね!もう一人で頑張らなくてもいいんだよ。」
晴人:「俺・・・、杏奈を守れなかったんだ・・・。
今だって、・・・杏奈はきっと傷ついたまま・・・、一人で学校に向かってると思う・・・。
親に心配かけたくないって、ずっと言ってた・・・。
・・・でも・・・、俺の力じゃ、何も出来ない・・・。傷ついた杏奈を、癒してやることすら・・・、うう・・・。」
ヒメル:「そんな事ない!晴人くんがいたから、きっと杏奈ちゃんは頑張ってこれたんだよ!」
空:「そうです。晴人くんは杏奈ちゃんの心の支えになっていた。だから二人で頑張ってこれたんです。」
晴人:「でも!俺が!付き合おうなんて言ったから!きっかけを作ったのは俺だよ!俺が好きにならなきゃ・・・。」
空:「それは違います。だって、二人の時間は幸せだったでしょう?幸せな二人に、罪なんてあるはずがありません。」
ヒメル:「そうだよ!悪いのはいじめてるヤツらだよ!ほんとに許せない!
晴人くんは、なんにも悪くない!!」
空:「そうです。何も悪くありません。」
晴人:「・・・あ・・・。っ・・・ありがとう・・・。」
空:「さぁ、では、杏奈ちゃんをどうやって救うか、一緒に考えましょう。」
ヒメル:「そうだね!早い方がいい!」
晴人:「・・・うん。」
空:「僕は、晴人くんが僕たちを頼ってくれたら、これを渡そうと思ってました。」
ヒメル:「なぁに?」
(空、鉢植えをテーブルに置く)
晴人:「え?・・・花?」
空:「はい。これは、レナトゥスという花です。」
ヒメル:「わぁ!きれいな花〜!
でも不思議な花だね。こっちは花で満開なのに、こっちには種がついてる。でもこっち側は枯れてるし、こっちには実がなってるよ?」
晴人:「(M)それは不思議な花だった。一つの株の中で、色んな表情を見せていた。
しかしどこを見ても、薄ぼんやりと光っていて、幻想的な花だった。」
ヒメル:「これはどんな花なの?」
空:「これはね、生まれ変わることが出来る花なんだよ。」
晴人:「う、生まれ変わる?」
空:「はい。
種を食べれば全てを。花を食べれば記憶だけ。実を食べれば体だけ、というふうに、食べる部分によって効果は異なりますが、食べた者を生まれ変わらせることが出来ます。」
晴人:「生まれ変わるって、その、どういう?」
ヒメル:「杏奈ちゃん、いなくなっちゃうの?」
空:「いや、生まれ変わるというのは・・・そうだな、今まで積み重ねてきたものが、初期の一に戻るというか・・・。
生まれ変わるところだけ、赤ん坊の状態になる感じかな。」
晴人:「・・・赤ん坊に・・・。」
ヒメル:「でもそれだったら!杏奈ちゃんが傷ついてない頃に戻れるよ!」
晴人:「!・・・うん!」
空:「でも、これの使い所はかなり難しい。
なんせ、赤ん坊に戻ってしまうわけだからね。
体が赤ん坊になってしまったら、誰も杏奈ちゃんだと認識できないし、記憶が赤ん坊になってしまったら、体は中学生なのに、日常生活が出来なくなってしまう。」
晴人:「っ!」
ヒメル:「そうかぁ・・・。」
空:「これを使う時は、杏奈ちゃんとよく話し合ってください。
それと、大人の協力もあった方がいい。」
ヒメル:「そうだね!」
晴人:「・・・でも、杏奈は・・・あんな事があったなんて、知られたくないんじゃないかな・・・。
毎日ボロボロになりながらも、懸命に立ち向かおうとしてたのに・・・、あんな事・・・!」
空:「そうですね・・・。だから、辛いだろうけど、杏奈ちゃんときちんと話し合って決めた方がいいと思います。
・・・支えてあげてください。」
ヒメル:「晴人くんなら出来るよ。・・・ううん、晴人くんにしか出来ないと思う。」
空:「それと、もう一つ。注意して頂かなくてはならない点があります。」
ヒメル:「もう一つ?」
空:「これもとても大事なことです。」
晴人:「・・・うん。」
空:「杏奈ちゃんはこれを飲むと生まれ変わります。一から人生をやり直すんです。つまり今までのことはなかったことになる。
・・・だから、・・・記憶を生まれ変わらせると・・・、晴人くんのことも忘れてしまうんです。」
ヒメル:「え!?」
晴人:「っ!・・・俺の事も・・・。」
空:「はい。
そして、性格や考え方も、今と違う人物になってしまう可能性も十分あります。
でも杏奈ちゃんにとって、いじめられてからの記憶はなくなった方がいい。覚えていたら、きっと辛くなるから。・・・そうでしょう?」
晴人:「・・・うん。」
ヒメル:「でも!杏奈ちゃんを守ろうとしてくれてる、晴人くんを好きって気持ちを忘れちゃうなんて!」
空:「・・・レナトゥスの花は、途中まで戻すということが出来ない。でも人ひとりがいなくなってしまうという事は、重大な事だ。だから使いどころが難しい。
でも、杏奈ちゃんを救うためには、このくらいの荒療治が必要だと、僕は思う。」
ヒメル:「・・・そんな・・・。」
晴人:「・・・杏奈が・・・俺を忘れる・・・。
せっかく想いが届いたのに・・・。」
ヒメル:「・・・晴人くん・・・。」
空:「・・・。」
晴人:「・・・でも・・・、俺は・・・、杏奈のあの笑顔が、また見たいんだ。
・・・あんな張りつけたような笑顔じゃなくて・・・。
あんなうつろな表情じゃなくて・・・。
杏奈が俺を忘れてしまっても、俺は覚えてる。俺が杏奈を支える。たとえ忘れてしまったとしても。」
ヒメル:「晴人くん・・・。」
空:「うん。晴人くんらしい顔になりましたね。」
晴人:「え?」
ヒメル:「うん!前向きで、何事にも正面から向かっていく晴人くんだ!」
晴人:「うん・・・、ありがとう。俺、頑張るよ!今度こそ杏奈のために!」
空:「はい!
では、晴人くんには、種と花と実をお渡ししましょう。
ゆっくり杏奈ちゃんと話し合って、じっくりどうするか決めてください。」
晴人:「うん・・・。」
空:「それともう一つ。飲むのはどれか一種類だけです。合わせて飲んでしまうと、僕にもどうなるか分からない。」
ヒメル:「一種類だけだよ!晴人くん、絶対守ってね!」
空:「用法・用量を守って使って頂ければ、きっと二人のためになります。」
晴人:「・・・うん。
空さん、ヒメル、ありがとう。俺に元気と希望をくれて。」
ヒメル:「ふふっ!よかった!」
空:「さ、急いだ方がいい。杏奈ちゃんが待ってます。」
晴人:「うん!」
空:「余ったものは、何もかも落ち着いたあとでいいので、返しに来てください。
その時に、またお話しましょう。」
ヒメル:「また惚気話聞かせてね♪」
空:「ヒメル、それは野暮じゃないのかな?」
ヒメル:「そんな事ないでしょ!」
空:「でも、二人の時間に首を突っ込むのは・・・。」
ヒメル:「突っ込んでないでしょ!お話聞かせてって言ってるだけじゃん!」
空:「えー、そうなのかなぁ・・・。」
ヒメル:「そうなの!」
晴人:「・・・ははっ!うん、また来るよ!
・・・ありがとうございます。」
晴人:「(M)深くお辞儀をして、顔を上げると、もうそこには店はなかった。
最初にここを訪れた時と同様、突然だった。時間も数分しかすぎていない。改めて不思議なお店だと思う。夢ではないのかと錯覚する。だが、俺の手には、希望の花がしっかりと握られていた。」
晴人:「・・・行こう、杏奈の所へ。」
(少しの間)
ヒメル:「・・・空。」
空:「うん。
晴人くんはきっと、杏奈ちゃんの所へ向かったはずだよ。」
ヒメル:「うん。
・・・間に合うよね?」
空:「・・・。
うん、・・・きっとね。」
ヒメル:「うん。」
空:「・・・見守ろう。僕らには、それしかできない。」
ヒメル:「うん。」
(しばらくの間)
晴人:「(M)学校に着く前に、杏奈の家にも寄ってきたが、もう登校した後だった。
杏奈にLINEでメッセージを送っても、既読がつかない。
俺は杏奈を探した。
教室にはいなかった。図書室にも、保健室にもいなかった。
大っぴらに走り回って、先生達に見つかったらめんどくさい。杏奈を守ろうともせず、むしろ追い込むような事をした先生達には、何も期待できない。見つかったら、邪魔されるだけだ。」
晴人:「杏奈・・・どこだよ・・・。」
晴人:「(M)宛もなくなり、俺は校庭に出た。校庭は先生達に、見つかるリスクが少ない。思考をめぐらせ考える。
どこにもいない。見つからない。外靴は靴箱にあった。だから、校舎にはいるはずなのに。」
晴人:「・・・あと杏奈が居そうな場所は・・・
(突然、どんっ、という大きな音が背後から聞こえてびっくりする。)っっ!?なんだ!?」
晴人:「(M)振り向いた先には、赤いものが飛び散っていた。上から落ちてきたのだろう。風に香る鉄の匂い・・・。
鼓動が激しく鳴る。最悪な想像が頭に浮かんでくる。それを振り切るように、急いで杏奈に電話をかける。
手が硬直して、上手く動かない。やっとの思いで通話ボタンを押すと、音は鉄の匂いの中から聞こえてきた・・・。」
晴人:「あ、あ・・・、あ、杏奈ぁぁぁぁああぁぁああぁぁ!!!!!」
(少しの間)
空:「ヒメル!見るな!!(ヒメルの目を手で覆う)」
ヒメル:「あ・・・、あぁぁあああぁぁぁあああぁ!」
空:「(顔を背ける)くっ!」
ヒメル:「杏奈ちゃん!?杏奈ちゃんなの!?」
空:「ヒメル、落ち着いて。」
ヒメル:「だって!ねぇ!」
空:「ヒメル、こっちにおいで。」
ヒメル:「空ぁ!杏奈ちゃんなの!?」
空:「ヒメル、お願いだから、こっちに来て。」
ヒメル:「だって!だって!」
空:「ヒメル!!」
ヒメル:「っ!」
空:「お願いだから・・・。」
ヒメル:「・・・うん。ごめんなさい。」
空:「・・・。」
ヒメル:「・・・空?」
空:「・・・。」
ヒメル:「大丈夫?」
空:「・・・うん。」
ヒメル:「・・・。杏奈ちゃん、もう助けられない?」
空:「・・・こうなってしまっては、・・・もう・・・。」
ヒメル:「・・・晴人くん・・・。」
空:「・・・うん、晴人くんが心配だね。」
ヒメル:「うん・・・。」
(しばらくの間)
晴人:「(M)杏奈は死んでしまった。
俺を置いて、一人で逝ってしまった。
俺は間に合わなかった。助けられなかった。
もう、どうすることも出来ない。何もする気になれない。もう、何もかもどうでもいい。」
晴人:「杏奈・・・。」
晴人:「(M)俺の手元には、杏奈のスマホがあった。
助け起こそうとした際に、思わず手に取って、そのまま持ってきてしまっていた。
杏奈に会いたい。その一心で、杏奈のスマホを触る。
写真のフォルダの中には、俺専用のフォルダが作られており、そこには二人の写真が並んでいた。学校で、図書館で、帰りのコンビニで・・・。写真の中の二人は、楽しそうに笑っている。」
晴人:「っ・・・、あ、んな・・・。」
晴人:「(M)思い出を辿っていると、俺とのLINEのやり取りの中に、未送信のメッセージがあることに気づいた。」
晴人:「・・・なんだ?」
杏奈:『どうしてなんだろう。
皆、なんでそんなに楽しそうなんだろう。
私をいじめることが、そんなに楽しいのかな?
今日、「なんであんたなんかが晴人くんと付き合ってるんだよ。私の方が先に好きだったのに。」って言われたよ。
その子は怒ってた。・・・泣いてた。だから、悪いことをしてるみたいな気持ちになっちゃった。
でも、どうしたら許してもらえるのか、分からないよ。
私はそんなに悪いことをしたのかな?
ただ、晴人くんを好きなだけなのに。ただ、一緒にいたいだけなのに。
・・・皆と、一緒なのに・・・。
こんなに毎日が辛くなるなんて、思わなかった。毎日毎日、もう無理かもしれない、もう頑張れないって思ってる。
でも・・・、でもね・・・。
晴人くんと、一緒にいたいんだよ。一緒にいるだけで、幸せなんだよ。
晴人くんと一緒なら、頑張れる!頑張るから、そばにいてね。
晴人くんが部活休んで私を守るって言ってくれたこと、すごく嬉しかった。また頑張ろうって思えたよ。
今、晴人くんは職員室に説明に行ってくれてる。待ってる間にこれを書いてます。
大好きだよ、晴人くん。
晴人くんだけが、私の心の支えです。これからもずっと一緒に(ここで文章が途切れる)』
晴人:「あぁぁ・・・、ううっ、杏奈・・・、杏奈・・・、あ、んな・・・、あぁぁ・・・。」
晴人:「(M)それはきっと、杏奈が送れなかった、最後のメッセージ。
一緒にいたいと、頑張ろうと思ってくれていた。悲痛ながらも、前向きな杏奈の強さを感じられるメッセージだった。
なのに・・・。俺は結局、何も守れなかった。一番大切なものでさえ、手からこぼれ落ちて行った。
無力だった。俺はちっぽけな一人の子供だった。守りたい気持ちだけが先行して、何も出来ない子供だった。」
晴人:「もう・・・、俺も・・・頑張れないよ・・・、杏奈・・・。」
晴人:「(M)俺の手には、空さんとヒメルから貰った希望がある。でも今では、何にもならない。守りたい人は、もう居ないのだから。」
晴人:「(M)俺は、種も花も実も、全てを口に含んだ。口に含んで、一気に飲んだ。」
晴人:「杏奈・・・、俺もそっちにいくよ・・・。これからも・・・ずっと・・・一緒だよ・・・。」
晴人:「(M)体が熱くなり、頭も割れそうに痛い。苦しい。辛い。痛い。痛い痛いいたいいたいいたいイタイイタイイタイ・・・。」
晴人:「コレデオレモ、ラクニナレル・・・(これで俺も、楽になれる)。」
(少しの間)
ヒメル:「は、晴人くん?!
空!晴人くん、どうなっちゃったの?!」
空:「・・・っ。」
ヒメル:「き、・・・消えちゃった・・・。」
空:「・・・晴人くんは、レナトゥスの種、花、実を全て飲んでしまった。
恐らくだけど、効果が強すぎて、赤ん坊より前に戻ってしまったんだと思う。・・・存在が確認出来ないくらい前に・・・。」
ヒメル:「そんなっ・・・!」
空:「・・・。」
ヒメル:「もう、助けられないの?」
空:「・・・っ。」
ヒメル:「あ・・・。」
空:「・・・。」
ヒメル:「・・・。」
空:「・・・。」
ヒメル:「空・・・。」
空:「・・・・・・なに?」
ヒメル:「自分を責めないで。空は精一杯やってたよ。」
空:「・・・。」
ヒメル:「空はやれるだけのことはやってた。」
空:「・・・でも、助けられなかった。
もうちょっと早ければ、助けられたかもしれないのに。
僕の頭がちゃんと晴人くんの事を覚えていれば!もう少し早く手を差し伸べられていたかも(しれないのに!)」
ヒメル:「(被せて)空!
それでも、晴人くんとの道が繋がったのは、あの時だった!どうしようもなかったの!」
空:「っ!・・・そうだけど・・・。
なんで僕は・・・、こうなんだ・・・。」
ヒメル:「・・・空。空が記憶をなくしてしまうのは、空のせいじゃない。空色の店の、副作用的なものなんでしょ?」
空:「・・・うん、そうだけど・・・。
それでも、覚えようとしていれば・・・、何度も反復して、忘れる前に思い返していれば、防げることもあるのに・・・。」
ヒメル:「それはきっと、忘れる前の空も、忘れないように努力していたと思う。
だから私がいるんでしょ?私たちは、二人で一人前なんだから。」
空:「・・・うん。」
ヒメル:「ね?」
空:「うん。」
ヒメル:「空、あんまり自分だけで抱え込まないで、私を頼ってよ。空のメモリーくらいになら、私だってなれるんだから!ねっ?」
空:「うん、頼りにしてるよ、ヒメル。」
ヒメル:「まかせて!
だから、空は少し休んで。何もかもを忘れるくらい・・・。」
空:「・・・忘れないよ・・・。もう忘れたくない・・・。」
(しばらくの間)
(ヒメル、空を探す)
ヒメル:「空〜?
も〜、どこいっちゃったんだろう?
そ〜ら〜!」
空:「(遠くから)ヒメル?ここだよ、おいで。」
ヒメル:「あ、空!・・・ここにいたんだ。」
(空、空色のお店の庭にある、小さなお墓の前で佇む)
空:「うん。何となく、足が向いてしまってね。」
ヒメル:「翼ちゃん・・・。」
空:「杏奈ちゃんは、翼ちゃんの親友だったんだね。そして、晴人くんは翼ちゃんの想い人・・・。」
ヒメル:「うん・・・。
空・・・、気づいてたんだ・・・。」
空:「うん、ついさっきね。晴人くんの事を思い返して映像を見ていたら、ほんの少しだけど、翼ちゃんが出てきてたよ。
ヒメルも気づいていたのかい?」
ヒメル:「うん、私も晴人くんの映像を見た時、もしかしたらと思ってた。」
空:「そうか・・・。」
(少しの間)
空:「話したら、僕が傷つくと思ったの?」
ヒメル:「・・・うん。」
空:「優しいね、ヒメルは。」
ヒメル:「・・・。」
(少しの間)
空:「三人の想いが交錯して、皆すれ違ってしまった。」
ヒメル:「うん。」
空:「僕は、そのすれ違いのお手伝いをしてしまった。」
ヒメル:「っ!それは違うよ!」
空:「違わないよ。」
ヒメル:「違う!」
空:「三人共、僕と出会わなければ、悩んだり、苦しんだりしながらも、きっと今も自分の人生を歩んでいたはずだよ。
僕が・・・、僕さえ居なければ・・・。」
ヒメル:「(大声で)違う!!」
空:「っ!」
ヒメル:「確かに今回は想定外の方向に進んでしまったよ!でもそれは、空が望んでたことなの?違うでしょ!
空は、皆が少しでも幸せになれるように、お手伝いしたんじゃないの?
空が言ってる事は、結果論でしかない。結果を怖がって何もしなかったら、何も変わらないじゃない!
私は三人と出会えて良かったよ!悲しい結果になってしまったけど、それでも出会えたことに悔いはない!
私は!私は・・・、これからも、・・・皆の笑顔を求めて、手助けしたいよ・・・。もちろん、空と一緒に・・・。」
空:「・・・ヒメル・・・。」
ヒメル:「それなのに!空のバカ!!『僕さえ居なければ』なんてそんな事!もう!バカバカバカ!!」
空:「ご、ごめん、ごめんよ、ヒメル・・・。」
ヒメル:「(空のセリフを待たなくていいです)もう空なんて知らない!勝手に拗ねてればいいんだ!私一人だけでも、皆を助けてみせるもん!もう!もう!!うわぁぁぁん!」
(空、ヒメルを抱きしめる)
空:「・・・ごめん、ヒメル。」
ヒメル:「うっ、うう・・・。」
空:「ごめんね、ヒメル。僕が悪かった。
そうだよね。僕は皆を幸せにしたかった。皆の笑顔が見たかった。今回も、それを願ってた・・・。
僕の願いは叶わなかったけど、投げやりになってはダメだよね。
ごめん、ヒメル・・・。」
ヒメル:「うっ・・・、ううん、うっ、また、・・・ぐすっ、・・・一緒に頑張ろう?」
空:「うん。
僕たち、二人で一人前だもんね。
僕はヒメルがいなきゃ、ただのポンコツだけど、ヒメルと一緒なら、また頑張れそうな気がするよ。」
ヒメル:「・・・うん!」
空:「ヒメル。」
ヒメル:「なぁに?」
空:「ありがとう。」
ヒメル:「・・・へへっ。」
空:「(M)僕はこれからも、皆の幸せを願って、空色の店を続けていく。
空:ヒメルと一緒に。」
END
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