【空色の店〜クリュスタッロス〜】
困ったり悩んだりしている時にだけ、あなたの前に現れる空色の店。
〜休憩シナリオ〜
楽しんで頂けたら幸いです。
〚ご注意〛
・全キャラ性別不問です。
・アドリブは、世界観を壊さない程度でお願いします。
・一人称、語尾等の変更はOKです。
・早口言葉が出てきます。楽しめなさそうな人は回れ右してください。
《登場人物》
①空(そら)
空色の店の店主。
性別不問
②ヒメル
空と一緒にいるネコ。
性別不問
③瀬野尾 凌(せのおりょう)
手術が言えないことに悩んでいる医師。
性別不問
-------❁ ❁ ❁-----ここから本編-----❁ ❁ ❁-------
ヒメル:「(N)あなたが住み慣れている街に、ふと、見覚えのない路地があったら・・・。
心のままに覗いて見てください。
きっとそこには、あなたが望んでいるものがある・・・かもしれません。」
(少しの間)
凌:「(M)最近ネットでまことしやかに流れている、ある噂。
『困ったり悩んだりしている時にだけ、あなたの前に現れる空色のお店。見つけたら願い事が叶うらしい。』
そんなものが本当にあるのなら、今すぐ私を助けて欲しい。
私にとっては、人生で最大の悩みなのだから・・・。」
(少しの間)
凌:「(M)私は外科医だ。国立の病院に勤務している。
頼りにしてくれる患者のためにも、日々の努力は欠かさない。
医学は日々進歩している。明日にも新しい技術や薬が発見されるかもしれない。
それをいち早く自分のものにし、最先端の治療を取り入れ、ひとつでも多く命を救っていきたい。」
凌:「・・・今日の診察はこれで終わりだな。
よし、あとはカルテをまとめて、明日の準備だ。明日は・・・あの子のオペがある。」
凌:「(M)難しいオペだ。成功率は50%。明日は長丁場で、時間との戦いになる。」
凌:「はぁ・・・。今日は一度帰って、シュミレーションするか・・・。」
(少しの間)
凌:「(M)なんだか違和感がして、ふと足を止める。
凌:毎日通っている通勤路。いつも通っている見慣れた道。なのに・・・。」
凌:(・・・こんなとこに道なんてあったか?奥には何があるんだろう・・・。)
(少しの間)
(ヒメル、体を起こす)
ヒメル:「・・・あ、空〜!誰か来るよ〜。」
空:「・・・うん。」
ヒメル:「・・・聞いてる?」
空:「・・・うん。」
ヒメル:「・・・空のばぁ〜か!」
空:「・・・うん。」
ヒメル:「・・・空のあんぽんた〜ん!」
空:「・・・うん。」
ヒメル:「・・・。もう!!空ったら!!」
空:「え?なんだい、ヒメル?」
ヒメル:「ずっと呼んでるのに!まったくぅ!全然気づいてないんだから!」
空:「あぁ、ごめんごめん。今ね、この氷を見ていたんだ。」
ヒメル:「氷?」
空:「うん。セリーン山脈の頂上にある、雪に覆われた緑の洞窟の湧き水が、洞窟の地下に少しずつ少しずつ流れ込んで水溜まりを作り、そこの水が時間をかけてゆっくり凍ったというこの氷は、溶かして飲むと、香りが芳醇でとっても美味しいんだ。」
ヒメル:「へぇ〜、なんか出来るまでにすごい時間がかかりそうな氷だね。」
空:「出来るまで、ざっと5年はかかるみたいだよ。」
ヒメル:「5年!?ほわ〜、気の長い話だねぇ。」
空:「でもそれだけ待つ価値はあるんだよ。僕も一度飲んだことがあるけど、本当に美味しいんだよ。」
ヒメル:「へぇ〜!私も飲んでみたい!」
空:「今ゆっくり溶かしているところだからもう少し待っててね。もうすぐ3人分溶けるから。」
ヒメル:「3人?あ!そうだ!お客様だよ!」
空:「うん、わかってるよ。路地の前で、入ろうか悩んでるみたいだから、ヒメル、頼めるかな?」
ヒメル:「うん!まっかせて!」
(少しの間)
凌:(なんだろう・・・奥が真っ暗で何も見えない・・・。)
凌:「(M)街灯も何もない、真っ暗な路地。
目を凝らすと、奥の方に、色とりどりの光が見える。」
凌:(あれはなんだ?・・・絵?)
凌:「(M)すると、その光が動き、右側に傾いた。」
凌:(・・・あれは扉・・・か?)
凌:「(M)奥に見える色とりどりの光が右に傾くと、扉の形なのだろう、オレンジ色の光が長方形に路地に降り注ぐ。
扉の周りは、夜空のように星が瞬いている。
扉だけが夜空に浮いているように見える、不思議な光景だった。
凌:あっけに取られていると、扉の中から、一匹のネコが現れた。
だんだん近づいて来るそのネコは、私の足元まで来ると、歩みを止めた。」
ヒメル:「にゃ〜。」
凌:「ん?」
ヒメル:「にゃっにゃっ。」
凌:「(M)ポンポンと、私の靴に手を乗せてくる。」
ヒメル:「にゃ〜。」
凌:「(M)そして踵を返し、誘う(いざなう)ように扉の方に歩いていく。」
凌:(なんだか呼ばれているようだ・・・。)
凌:「(M)ネコから目を離せないでいると、扉の前に着いたネコが、ちょいちょいと手招きをする。」
凌:「!?」
凌:「(M)ネコの後を追いかけて、私はステンドグラスのはまった扉に手をかけた。」
(少しの間)
空:「いらっしゃいませ。」
凌:「あ・・・、どうも。今、こちらにネコが・・・。」
空:「ヒメルのことですか?あちらのソファにおりますよ。」
凌:「ヒ、メル?」
空:「はい、ヒメルです。」
凌:「(M)ソファに目を向けると、先程のネコがちょこんと座っている。」
凌:「・・・不思議なんですが、ヒメルに、・・・呼ばれたような気がして、思わずこちらに入ってしまったのです。」
空:「あぁ、それでしたら、僕がヒメルにあなたのお迎えをお願いしたのですよ。」
凌:「え?」
ヒメル:「そうだよ!路地に入るか迷っていて、なかなか入ってこなかったから、私がお迎えに行ったんだよ!」
凌:「・・・え!?」
空:「ありがとうね、ヒメル。」
ヒメル:「どういたしまして!」
凌:「え!?・・・え!?」
空:「?いかが致しました?」
凌:「ネコが!?・・・しゃ、しゃべって・・・?!」
空:「あぁ!あぁ、すみません!驚かせてしまいましたね!ヒメルは喋れるのです。」
ヒメル:「そうだよ!しゃべれる、賢いネコなの♪」
凌:「喋れる・・・?」
ヒメル:「最近噂になってる、空色の店って知ってる?」
凌:「あ、あぁ、でもその噂は、単なる噂であって・・・。」
ヒメル:「それがそうでもないんだなぁ♪お店の外観を見たでしょ?そして、私が喋ってるのも見た、ね?」
凌:「・・・本物、なんですか?」
空:「はい。本物ですよ。僕は店主の空と申します。」
凌:「空さん・・・。・・・では、なんでも願いを叶えてくれると言うのも・・・?」
空:「それは、少し違います。なんでも願いを叶える訳ではなくて、その方の悩みを聞いて、その方に合った商品をお渡ししているんです。
だから、じっくり話を聞いて、どんなことに悩んでいるのか、教えてもらう必要があります。」
ヒメル:「そうだよ!間違えて渡すと、とんでもない事になる事もあるからね!」
凌:「とんでもないこと?」
空:「お渡しする商品は、使用方法と使用頻度をきちんとお伝えしてお渡しするので、用法用量を守って使用していただければ、とんでもない事にはなりませんよ。」
凌:「は、はぁ・・・。」
空:「今日は特別で貴重な天然水が手に入ったのです。ちょうど飲み頃になってますので、こちらを飲みながら、ゆっくり話しましょう。」
ヒメル:「わぁい♪楽しみ!」
凌:「は、はぁ・・・・・。」
(少しの間)
凌:「私は瀬野尾凌(せのおりょう)です。外科医をしています。」
ヒメル:「へぇ!お医者さんなんだぁ!」
凌:「はい。国立の病院に勤めておりまして、海外からのオペ依頼も、多く受け付けております。」
空:「ほぉ、大きな病院なのですね。」
凌:「はい。明日も、海外からの依頼で、難しいオペが入っています。」
ヒメル:「わぁ、大変だぁ!」
空:「優秀な先生なんですね。」
凌:「いえ、私なんてまだまだです。でも、患者の命を預かっている以上、常に最善を尽くします。」
ヒメル:「それで?どうしても助けたい患者さんがいるとか?」
凌:「あ、いえ、助けたい患者となると、全員です。・・・全員助けられるんですか?」
空:「それは・・・、難しいです。その願いは、僕の力では叶えられません。」
凌:「・・・そうですよね。」
空:「・・・すみません。」
凌:「いえ、謝らないでください!私が腕を磨き、患者を助けられるように頑張ります。」
ヒメル:「うん!えらい!応援しちゃう!」
凌:「ありがとう。頑張ります。
・・・悩んでいるのは、それ以前の話なんです。」
空:「それ以前?」
凌:「明日、オペをする子は、まだ5歳です。成功率50%のオペに立ち向かおうとしています。」
ヒメル:「っ!まだ5歳なのに・・・。」
凌:「その子に言われたんです・・・。」
空:「・・・何を?」
凌:「・・・(言い淀む)。」
ヒメル:「なんて言われたの?」
凌:「・・・皆さん、オペ・・・、オペレーションを日本語でなんて言うか、分かりますか?」
空:「・・・『手術』、ですか?」
凌:「はい。」
ヒメル:「それがどうかしたの?」
凌:「その子の診察をした時、信頼関係を築くために、色々話をしたんです。いろいろな日本語も教えました。その中で、オペの説明をしていた時、『オペは日本語でなんて言うの?』と聞かれました。」
ヒメル:「うん。」
凌:「その時・・・(言い淀む)。」
空:「はい。」
凌:「・・・いんです。」
ヒメル:「え?」
凌:「私、言えないんです!」
空:「・・・手術、を?」
凌:「・・・はい。」
ヒメル:「?どういう事?」
凌:「オペを日本語で言えないんです!滑舌が悪いんだと思います。病院では、オペと言えば伝わるので、特に不自由は感じませんでした。でも・・・!」
空:「その子に聞かれた、と。」
凌:「・・・はい。その子は、オペの恐怖と戦っています。その中で、精一杯明るく振舞っています。でも・・・本心はきっと逃げ出したいんです。5歳の、まだほんの小さな子供です。そりゃ恐いでしょう?」
ヒメル:「?でも、手術を言えない事と、その子のオペと、なにか関係があるの?」
凌:「あの子、ボソリと言ったんです・・・。『出来ないこともあるよね』、と。諦めたような笑顔で・・・。
きっと、オペと重ねたんです。『失敗することもあるよね』、と、そう聞こえました・・・。」
空:「・・・っ。」
凌:「だから私は!・・・言えるようになりたいんです。出来るんだよってことを、あの子に見せてからオペをしたい!」
ヒメル:「うん!言えるようになろう!手伝うよ!」
凌:「はい!ありがとうございます!」
ヒメル:「とりあえず、まず言ってみて?はい、『手術』。」
凌:「!っ!・・・行きます!
(深呼吸)・・・しゅじゅちゅ!!」
ヒメル:「ノンノン!『手術』!」
凌:「ちゅじゅつ!」
ヒメル:「おしい!『しゅーじゅーつー』!」
凌:「ちゅーじゅーちゅー!」
ヒメル:「・・・だんだん離れていってるよ。
空、何か助けになるようなものないの?」
空:「うーん、そうだな・・・。
まずこの美味しい特別な天然水で口を潤してください。」
凌:「・・・これで?」
ヒメル:「特別なんだ!」
空:「口は乾いていると、滑舌が悪くなります。口を潤すと良くなるはずですよ。
その時、余計なものが入っておらず、さっぱりとさせてくれる水や緑茶などが良いとされています。
今回は、ちょうど、特別良くなるこの天然水があるので、これで潤しましょう。」
ヒメル:「すごい!ピッタリだね!」
凌:「はい!」
空:「それと・・・、この水にこれを加えます。」
ヒメル:「なぁに?透明で、キラキラしてるね!」
空:「これはクリュスタッロスと言う物です。今回だけ、特別ですよ。」
凌:「は、はい!」
ヒメル:「さぁ!これを飲んで、練習だね!」
凌:「はい!」
(少しの間)
※言いにくい単語がいっぱい出てきます。頑張ってください。
※凌役の方は、間違い方は適当でも大丈夫です。
※空、ヒメル役の方は、アドリブで言えるまで言っていただいて大丈夫です。(ニヤ)
ヒメル:「はい!『手術』!」
凌:「すずつ!」
ヒメル:「拗音が全部なくなってる!もう一回!」
凌:「しゅじゅちゅ!」
ヒメル:「今度は全部についてる!」
空:「ゆっくりで良いので、確実に言ってみましょう。」
ヒメル:「じゃあ空も!『しゅーじゅーつ』!」
空:「手術!」
凌:「しゅ、しゅしゅちゅ!」
ヒメル:「うーん、なかなか言えないねぇ。」
凌:「・・・すみません。」
空:「他の言葉も言ってみたらいいかもね。気分転換にもなるし。」
ヒメル:「いいね!じゃあ、『赤巻紙青巻紙黄巻紙!』(あかまきがみあおまきがみきまきがみ)」
空:「赤巻紙青巻紙黄巻紙!」
凌:「あかまきまき、あおまきがき、きまきまき!」
ヒメル:「『新設診察室視察!』(しんせつしんさつしつしさつ)」
空:「新設診察室視察!」
凌:「しんせんしんしつしつししつ!」
ヒメル:「『獅子の子の子獅子』(ししのこのこじし)」
空:「獅子の子の子獅子!」
凌:「しししのこののしし!」
ヒメル:「・・・一個も言えてないけど、雰囲気は出てるから行けるかも!」
空:「行ってみましょう!」
凌:「はい!」
ヒメル:「『手術』!」
空:「手術!」
凌:「しゅじゅちゅ!」
ヒメル:「『しゅーじゅーつ』!」
空:「しゅーじゅーつ!」
凌:「しゅー、じゅー、つ?」
ヒメル:「わっ!もう一回!『しゅーじゅーつ』!」
空:「しゅーじゅーつ!」
凌:「しゅーじゅーつ!」
ヒメル:「わっわっ♪伸ばさないで!『手術』!」
空:「手術!」
凌:「手術!!!」
ヒメル:「わぁっっ!!!言えた!!」
空:「すごいです!」
凌:「や、やった!!手術!手術!手術!!」
ヒメル:「おめでとーーー!!」
空:「よかったですね!!」
凌:「はい!ありがとうございます!!これで、あの子を勇気づける事が出来ます!」
空:「クリュスタッロスの効果は、3日は続くと思います。明日も頑張ってくださいね。」
凌:「はい!ありがとうございます!」
ヒメル:「手術も頑張って、救ってあげてね!」
凌:「はい!一緒に頑張ります!」
(しばらくの間)
ヒメル:「そーらー?どこにいるの?」
空:「ここだよ、ヒメル。」
ヒメル:「ねぇねぇ、あれから凌さん、どうなったかな?」
空:「りょう、さん?」
ヒメル:「またかぁ・・・。3日前に、手術が言えないって言ってた凌さん!みんなで早口言葉とか練習したじゃない!」
空:「りょうさん、りょうさん・・・。」
ヒメル:「手術って、ちゃんと言えたかなぁ?」
空:「・・・りょうさん、りょうさん、・・・あぁ!思い出した!凌さん!よし、見てみようか?」
ヒメル:「うん!」
ヒメル:「(M)空には、他人(ひと)の人生を覗き見できる力がある。
ただ、誰でも彼でも覗き見できる訳ではなくて、一度会って、一緒に飲み物を飲んだ人限定で。
覗き見する時は、その時その人が飲んだカップで、その人が飲んだ同じ飲み物を準備しなくてはならない。
その同じカップに、同じ飲み物を入れた時だけ、水面に映像が映し出されるのだ。」
空:「準備できたよ。見てみよう。」
ヒメル:「うん!」
(少しの間・回想)
※言えるまで言っていただいて大丈夫です。
凌:「こんにちは。いよいよオペだね。・・・今日は君に聞いてもらいたいことがあるんだ。
(意を決したように)赤巻紙青巻紙黄巻紙!
新設診察室視察!
獅子の子の子獅子!
・・・手術!!」
凌:「言えた!言えたよ!
・・・出来ないことなんてないんだ。私も頑張るから、一緒に乗り切ろう!」
(少しの間・現在)
ヒメル:「わぁ!!ちゃんと言えてる!言えてるよ!」
空:「うん!よかった!本当によかった!」
ヒメル:「これできっとあの子も頑張れるよね。」
空:「うん、そうだね。」
ヒメル:「・・・でもさぁ、あの時用意してた水が、特別なものだったなんて知らなかったよ。あとクリュスタッロスも!
あの時凌さんが来たのは、運命だったのかもしれないねぇ。」
空:「あー・・・、ヒメル、あれはね、・・・ただの水なんだ。ただのすごく貴重なおいしい水。」
ヒメル:「え?でも滑舌が良くなるって・・・。・・・クリュスタッロスは?」
空:「クリュスタッロスは、ただのすごく貴重なおいしい水で作った氷さ。」
ヒメル:「えーーー!?空、騙したの!?」
空:「騙したなんて人聞きが悪い。口が乾くと滑舌が悪くなるのは本当だし、何より、凌さんの肩にすごく力が入っているのが分かったから・・・、こう、ちょっとね。出来るって暗示をかけただけさ。」
ヒメル:「えーーーー!?」
空:「ヒメルは滑舌がいいんだね。」
ヒメル:「私も、今なら出来るって・・・騙された!!」
空:「それで自信がつくのはいいことだよ。自分は出来るって信じるのは、自分の力になるからね。」
ヒメル:「・・・うん、そうだね。」
空:「・・・許してくれる?」
ヒメル:「騙したことは、今日のお茶の美味しさによって許してあげる!」
空:「じゃあ張り切って用意しないと。」
ヒメル:「たのしみにしてるっ!」
END
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