【向日葵の石】


向日葵のような笑顔の彼女は、周りも笑顔にしていた。


〚ご注意〛

・キャスト様の性別は問いませんが、登場人物の性別変更は不可です。

・アドリブは世界観を壊さない程度でお願いします。



‪《登場人物》

①柊悟(しゅうご)(男性)

29歳。会社員。


②澄夏(すみか)(女性)

23歳。アクセサリー作りが趣味。フリマを開いている。




-------❁ ❁ ❁-----ここから本編-----❁ ❁ ❁-------




澄夏:「お兄さん、寄ってかない?」


柊悟:「(M)会社に通勤するためにいつも通っている公園。

柊悟:早足に駅へ向かっていると、そう呼び止められた。」


澄夏:「安くしとくよ!どれもお買い得!」


柊悟:「(M)歳は、20代前半くらいだろうか。よく通る声に、足を止めた。」


柊悟:「・・・何をやっているんだ?」

澄夏:「フリマだよ!フリーマーケット!要らなくなった服とか物とかを、必要な人に安く売ってるの。

私はそれ以外にも、自分で作った物とかも売ってるけど。」


柊悟:「(M)見ると、彼女の足元には、洋服や雑貨の他に、手作りらしきアクセサリーが並べられている。」


柊悟:「へぇ。これ、君が作ったの?」

澄夏:「そうだよ。かわいいでしょ!」

柊悟:「器用だな〜。」

澄夏:「簡単だよ!作るの好きだしね!」

柊悟:「俺、こういうちまちました物、苦手なんだよな。すごいな。」

澄夏:「ふふっ♪ありがとう。好きなのあったら買っていってよ。安くしとくよ!」

柊悟:「あぁ・・・って、ヤバい!ごめん、また今度な。仕事遅れる!」

澄夏:「え?今日日曜なのに仕事なの?」

柊悟:「休日出勤ってやつだよ。」

澄夏:「大変だねぇ。」

柊悟:「君も自由な時間を今のうちに楽しんでおけよ。」

澄夏:「・・・はぁ〜い。」

柊悟:「じゃあ、また見かけたら寄るよ。」

澄夏:「あ、私毎週でここでフリマ開いてるから!

澄夏:また気が向いたら遊びに来てね!」

柊悟:「あぁ!またな!」

澄夏:「待ってるからね〜!」



(次の週)



柊悟:「(M)翌週、コンビニに行く為に公園を通ると、先週同様、フリマのイベントをやっているようだった。

まったりと時間が流れているような公園に、一角だけ賑わっている所があった。」


澄夏:「安いよ安いよ!買っていって〜!」


柊悟:「(M)先週と同じく、よく通る声が、賑わいの中心から聞こえてきた。」


澄夏:「お客さん、お目が高い!今しか買えないよー!買った買ったぁ!」

柊悟:(すごい賑わってるな。どれどれ・・・。)

柊悟:「え!?電子レンジが300円!?」

澄夏:「あ!先週のお兄さんじゃん!そうだよ!他にも安いの目白押しだから見てってね!」


柊悟:「(M)他の商品も見てみると、ケトルが100円、テレビが1000円・・・。」


柊悟:「こりゃ、賑わうわけだ。」


澄夏:「商品を運ぶのは自己責任でね!お客さん何が欲しいの?テレビ?よし、売ったぁ!」


柊悟:「(M)この後も格安の電化製品やら家具やらが、飛ぶように売れていく。

俺は気後れしてしまって、そっとその場を離れ、コンビニに向かった。」



(少しの間)



柊悟:「お疲れさん。」

澄夏:「あ!お兄さん!」

柊悟:「すごい賑わい方だったな。」

澄夏:「まぁね。ありがたいことです。」

柊悟:「やるよ。」

澄夏:「え?・・・カフェオレ?」

柊悟:「あんだけ声張り上げてりゃ、喉も乾くだろ。」

澄夏:「いいの?ありがとう!」

柊悟:「俺がコンビニに行って帰ってくる間に、ほとんど全部売れたのか?」

澄夏:「そうだね。電化製品とかは全部売れたかな。」

柊悟:「一段落ってとこか。」

澄夏:「あとはアクセサリーが、もうちょっと売れたら店じまいだね。」

柊悟:「あんな値段で売って、元取れんの?」

澄夏:「んー、別に元取るつもりはないからね。」

柊悟:「それじゃ商売にならないだろ。」

澄夏:「商売っていうか、断捨離して、自分に不要な物を売っただけだから。」

柊悟:「不要な物?レンジとかテレビとかもか?」

澄夏:「うん。要らなくなっちゃった。」

柊悟:「なんだ?修行僧みたいな生活でも送るのか?」

澄夏:「あははっ!まぁ、そんな感じ!」

柊悟:「近頃の若いもんの考えは分からないな。」

澄夏:「若いもんって(笑)お兄さんとそんなに歳変わらないでしょ?」

柊悟:「俺29。おじさんだよ。」

澄夏:「私23。ほら!そんなに変わらないじゃん。」

柊悟:「いやいや、十分若いですよ。」

澄夏:「そんなこと言ってるからおじさんになるんですよ〜。」

柊悟:「だからおじさんだって‪(笑)」

澄夏:「あ!そうだ!そんなおじさんにあげたい物があるんだった。」

柊悟:「・・・おじさんって呼ばれると、それはそれで来るものがあるな・・・。」

澄夏:「何ブツブツ言ってるの?・・・はい!これ!」

柊悟:「何?」

澄夏:「開けてみて!」


柊悟:「(M)彼女が差し出した袋を開けると、中からシックなネクタイピンが出てきた。黒地に青い石が填まっていて(はまっていて)、シンプルなデザインだ。」


柊悟:「これ・・・。」

澄夏:「日曜もお仕事頑張ってるお兄さんに、プレゼント!来てくれたら渡そうと思ってたの。」

柊悟:「こんな高そうな物、貰えないよ。」

澄夏:「貰ってよ!そんなに高くもないし!プレートと石をくっつけただけだから。」

柊悟:「え!?これも手作り!?」

澄夏:「そうだよ。我ながらかっこよくできたんだ。」

柊悟:「へぇ〜、ネクタイピンって作れるのか・・・。」

澄夏:「道具と素材があればね!せっかく作ったんだから、ありがたく使ってよ!」

柊悟:「ははっ!うん、ありがたく使わせていただきます。・・・えーと・・。」

澄夏:「あ!私、澄夏!澄んでる夏って書いて、澄夏だよ。」

柊悟:「俺は柊悟。柊に悟るって書いて柊悟。よろしくな。」

澄夏:「うん!よろしく!」


柊悟:「(M)そう言って、満面の笑みをうかべた彼女は、眩しく見えた。」


柊悟:「澄夏・・ちゃん?さん?・・はさ・・」

澄夏:「澄夏でいいよ。ちゃんとかさんとか、こそばゆい!私も柊悟って呼ぶからさ!」

柊悟:「俺、一応歳上なんだけど・・・。」

澄夏:「そんな細かいこと気にしない気にしない!それとも柊悟は気になるタイプ?」

柊悟:「いや、別にいいけど・・・。ははっ。」

澄夏:「何?なんで笑ったの?」

柊悟:「いや、澄夏って、人見知りとは無縁の生き物なんだろうなと思って。俺、結構人見知り。」

澄夏:「そうなの?だって人見知りなんかしてたらもったいないじゃん!人生短いんだし、色んな人と出会って、楽しまなきゃ!」

柊悟:「頭ではわかってても、思い通りには出来ないもんだよ。」

澄夏:「そうかなぁ?普通に日々を楽しんでいれば、人は集まってくるものじゃない?」

柊悟:「そうなんだろうな。俺は日々いっぱいいっぱいだから。」

澄夏:「じゃあ、一緒に楽しもうよ!柊悟、フリマ手伝ってみない?売り子さんとして!」

柊悟:「えぇ?!」

澄夏:「そしたら一緒に楽しめるじゃん♪ね!決まり!」

柊悟:「ちょっと、待(てよ)・・・。」

澄夏:「(被せて)じゃあ来週の8時に、ここ集合ね!売り物は私が持ってくるけど、もし柊悟も売る物があったら持ってきてもいいよ!」

柊悟:「え?あっ、ちょっと・・・。」

澄夏:「そうと決まれば、私も帰って新しい雑貨作ろうっと!わぁ♪楽しくなってきた!じゃあね、柊悟!また来週!!」

柊悟:「あっ!ちょっと!・・・・・・・行っちまった・・・。」



(次の週)



澄夏:「柊悟ーー!おはよう!」

柊悟:「おはよう。」

澄夏:「今日もいい天気だね!絶好のフリマ日和!!張り切っていきましょう!」

柊悟:「朝から元気だな。」

澄夏:「朝に元気がなくてどうするの?これから楽しい一日が始まるんだよ?

澄夏:さ!朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで!

す〜は〜!(深呼吸)」

柊悟:「す〜は〜!(深呼吸)」

澄夏:「はい!爽やかな気持ちになった所で、開店準備始めるよ!」


柊悟:「(M)俺は、澄夏に指示されるまま、開店準備を手伝った。

彼女の表情を目で追う。商品を並べる時も、どうやって並べたらいいか悩んでる時も、表情豊かで、笑ったり眉間に皺を寄せたりしている。

俺は、そんな彼女に、思わず見とれてしまった。」


澄夏:「柊悟ー。手が止まってるよ!キビキビ働く!」

柊悟:「あ!はい!」

澄夏:「あはっ!なんで敬語?あははっ!」


柊悟:「(M)開店準備ができて、周りもフリマの雰囲気になってきた頃、一人の小さな女の子が店先に来た。

ピンクのペンダントをじっと見ている。」


澄夏:「いらっしゃい!

そのペンダントがほしいの?」


柊悟:「(M)女の子がこくりと頷く。

ペンダントには、100円と値札が着けられていた。相変わらず材料費にもならないような値段だ。」


澄夏:「ふふっ♪それはつけるだけで可愛くなれちゃう、魔法のペンダントだよ。それを選んでくれたあなたに、特別にプレゼントしちゃう!」


柊悟:「(M)女の子の顔がパァっと輝いた。」


澄夏:「せっかくだから付けてあげる!

後ろ向いて!・・・よっと。

はい、できた!うん!とっても似合うよ!」


柊悟:「(M)女の子は『ありがとう』と言うと、踵を返して走っていった。」


柊悟:「先週の電化製品と言い、本当に材料費にもならない金額で売ってるのな。」

澄夏:「まぁね。電化製品は断捨離で要らなくなった物だし、私が作ったこのアクセサリー達は、色んな人に着けてほしいから!むしろ貰ってほしいくらいなんだけど、フリマでそれやっちゃうと、なんか怪しいし(笑)。」

柊悟:「ははっ!タダより怖いものはないってか。」

澄夏:「そうそう。1回やってみたんだけど、みんな訝しんじゃって(いぶかしんじゃって)。」

柊悟:「やったんかい。」

澄夏:「うん。誰も寄ってこなかった(笑)。

まぁ、だからね、こうして格安で販売してるわけですよ。」

柊悟:「なんでフリマなの?ネットとかでもいいんじゃないの?準備とかしなくていいし、楽じゃない?」

澄夏:「フリマだと、直接笑顔が見れるから。さっきの女の子みたいに、満面の笑みで『ありがとう』って言われたら、製作者冥利に尽きるってもんですよ!」

柊悟:「あぁ、なるほど。確かにそうだな。こっちまで嬉しくなるもんな。」

澄夏:「でしょ?それがフリマの醍醐味よ!分かってきたじゃん!」


柊悟:「(M)そう言った彼女の笑顔が眩しくて、俺は直視出来なかった。

この子は、なんて幸せそうに笑うんだろう。

まるでそこに、花が咲いたように。

みんなが自分の事で精一杯で、毎日をダラダラ生きている。俺もそうだ。

そんな中、彼女は人の喜ぶ顔が嬉しいと言う。

喜んで貰える嬉しさを、俺も感じることが出来た。」


柊悟:「ありがとな。」

澄夏:「え?」

柊悟:「誘ってくれて。澄夏が楽しいって言ってた事、俺もわかったような気がする。」

澄夏:「・・・ふふっ♪それは良かった!」



(しばらくの間)



澄夏:「さてと。そろそろ店じまいかな。」

柊悟:「そうだな。ほぼ売り切れたもんな。

なぁ、来週もここでやるのか?フリマ。」

澄夏:「・・・う〜ん、来週からはちょっと、・・・たぶんなかなか出来なくなるかな。」

柊悟:「そうなのか。残念だな。また手伝えればと思ったんだけど。」

澄夏:「お!嬉しいこと言ってくれるね!

でもごめんね。私も忙しくなっちゃって。また店開けるようになったら、ここで開いてるから、見つけたら声掛けてよ。」

柊悟:「そうだな。声掛けるよ。

あ、そうだ。連絡先(教えてくれよ)。」

澄夏:「(被せて)あぁー!時間に遅れちゃう!またね、柊悟!」

柊悟:「あ!ちょっと!」


(澄夏、走り去る)


柊悟:「・・・連絡先くらい、教えていけよ・・・。」



(しばらくの間)



柊悟:「(M)それから俺は、日々の日常に戻っていった。

毎週日曜日が来る度に、公園に立寄る。

だが、澄夏姿はなかった。

あの、よく通る声が聞こえる事はなかった。」



(数ヶ月後)


柊悟:「んんっ!(咳払い)

柊悟:(なんか喉が痛むな。風邪かな?)


柊悟:「(M)俺は体調の悪さを感じ、風邪薬をもらいに病院に行った。」



(少しの間)



澄夏:「いいよ、あげるよ!

え〜?じゃあ、そのメロンパンと交換で♪」


柊悟:「っ!」


柊悟:「(M)良く通る、あの声が聞こえてきた。

周囲を探す。

そこには、パジャマ姿の澄夏がいた。」


柊悟:「澄夏!」

澄夏:「・・・?

え!?あ、柊悟!?ど、どうしてここに・・・。」

柊悟:「澄夏こそ・・・。」

澄夏:「あ・・・えと・・・。」

柊悟:「・・・ちょっと・・話せるか?」

澄夏:「・・・うん。」



(少しの間)



澄夏:「あ〜あ、バレちゃったか・・・。」

柊悟:「ビックリしたよ。風邪で薬貰いに来たら、パジャマ姿の澄夏がいるから・・・。」

澄夏:「・・・風邪、大丈夫?」

柊悟:「うん、俺は大した事ないから。」

澄夏:「そっか。よかった。」

柊悟:「ありがとう。

・・・。」

澄夏:「・・・。」

柊悟:「聞いていいか?」

澄夏:「・・・うん。」

柊悟:「澄夏はなんで病院にいるんだ?パジャマだし、入院・・・だよな?」

澄夏:「・・・うん。」

柊悟:「・・・どこか悪いのか?」

澄夏:「・・・。」

柊悟:「・・・言いたくないなら、聞かないけど・・・。」

澄夏:「・・・私ね、・・・心臓が悪いの。」

柊悟:「し、心臓!?」

澄夏:「うん。でも、普段は通常と変わらない生活ができるんだよ?あんまり走ったりは良くないけど、大声出したりとか、少しの運動だったらしても大丈夫なの。」

柊悟:「・・・そうなのか。」

澄夏:「うん。」

柊悟:「入院してるって事は、・・・あんまり良くないのか?」

澄夏:「う〜ん、そうだね。」

柊悟:「・・・治るんだろ?手術とか、今は色々医療技術も進んでるし・・・、大丈夫なんだろ?」

澄夏:「・・・どうだろ?私の場合、発作が起きる原因が分かってないんだよね。

単純に心臓を鼓動させない為に運動しない、とかじゃ防げないみたい。

アレルギーとか、はたまた何かの動きがきっかけなのか・・・。

今までの検査じゃ、分からなくてさ。

だから、例えば移植手術とかすれば治るって事でもないみたい。」

柊悟:「・・・そ、そうなのか。」

澄夏:「・・・うん。」

柊悟:「・・・。」

澄夏:「まぁ、でもね!私は幸せだから!」


柊悟:「(M)そう、いつもの笑顔に戻って、澄夏は言う。」


澄夏:「みんなが優しくしてくれる!

看護師さんとか、先生も!私のわがまま聞いてくれて、フリマにもギリギリまで参加させてくれたし!

お客さんも、みんな喜んでくれた!

柊悟だって!お店手伝ってくれたりして、一緒に時間を共有してくれた!

それって、めっちゃありがたいことだと思わない?」

柊悟:「・・・。」

澄夏:「だから私は幸せ!もう、思い残す事はないかな!」



(少しの間)



柊悟:「家族とか、毎日来るのか?」

澄夏:「・・・・・・・・。

澄夏:私、天涯孤独だから。ははっ!」

柊悟:「え?」

澄夏:「3年前に両親が事故で亡くなってさ。親戚も誰もいないし。

だから、悲しむ人もいないし、身軽なんだよ。

終活も完璧!一切合切売っちゃって、本当に必要な物だけが手元にある感じ?いつでもいけるって感じ!」

柊悟:「・・・・・・・。」

澄夏:「・・・・・・・。」

柊悟:「・・・俺は悲しむよ。」

澄夏:「・・・え?」

柊悟:「俺は悲しむよ。澄夏がいなくなったら、俺が悲しむ。」

澄夏:「・・・あはっ!・・・・・・ありがと。」



(沈黙・少しの間)



柊悟:「俺、毎日ここに来ていいか?」

澄夏:「え?」

柊悟:「おまえ、たぶん、淋しいとかつらいとか、誰にも言ってないだろ。

まだ短い付き合いだけど、そのくらい、俺にもわかるよ。」

澄夏:「え・・・あ・・・。」

柊悟:「泣き言、全部俺が聞いてやるよ。

ずっと笑顔で、迷惑かけないように、とか考えてるだろ。

俺がお前のはけ口になってやる。」

澄夏:「・・・・・なんで・・・?」

柊悟:「え?」

澄夏:「なんでそこまで・・・?たかだかちょっとフリマ一緒にやっただけだよ?なんでそんなほとんど見ず知らずの・・・。」

柊悟:「(被せて)俺がしたいんだからいいんだよ。」

澄夏:「・・・。」

柊悟:「これでも、結構感謝してるんだ。

ずっと仕事ばっかりで、人の笑顔に触れる事なんてあんまりなかったから。

なんか、はっとさせられたって言うかさ。

澄夏が、人との繋がりって大事だなって、改めて思わせてくれたって言うか・・・。」

澄夏:「・・・・・ふっ。」

柊悟:「え?」

澄夏:「ふふっ!あはは・・・。(泣き笑いになる)

澄夏:・・・・・柊悟。・・・ありがとう。」

柊悟:「・・・・・どういたしまして。」



(別日)



柊悟:「澄夏ー。来たぞー。」

澄夏:「あ!柊悟!いらっしゃい!」

柊悟:「ん?何してるんだ?」

澄夏:「ん〜?ピアス作ってる。」

柊悟:「ピアス?」

澄夏:「うん。306号室のアコちゃんが、可愛いピアスほしいって言うからさ。 作ってるの。」

柊悟:「アコちゃん?」

澄夏:「アコちゃんという名の亜紀子ちゃん。退院したら、彼氏とデートなんだって♪」

柊悟:「それで一肌脱いでるって訳か。」

澄夏:「そうそう。彼氏とのデートとあっちゃ、気合い入れないわけには行かないでしょ!」

柊悟:「あんだけ家電とか売ってたのに、そのハンダゴテとかは売らなかったんだな。」

澄夏:「これは死ぬまで必要だもん。これがなくっちゃ、なんにも作れなくてストレス溜まっちゃう!」

柊悟:「それはそれは。ストレスは身体に良くないな。」

澄夏:「でしょ?」

柊悟:「病院で、そういうの使っていいんだな。」

澄夏:「・・・本当は・・たぶん良くないんだけど・・・。大目に見てもらってる。」

柊悟:「みんな澄夏に甘いなぁ。」

澄夏:「賄賂という名のアクセサリー、あげてるからね♪(悪い顔)」

柊悟:「みんな共犯な訳だ。」

澄夏:「もちろん柊悟もね!」

柊悟:「俺を巻き込むなよ〜。」

澄夏:「だめだめ!そのネクタイピンしてる時点で、共犯だから!」

柊悟:「・・・確かに。ははっ!」

澄夏:「そのネクタイピン、お似合いですね。」

柊悟:「そうか?お気に入りだからな!」

澄夏:「ふふっ♪

柊悟のネクタイピンに填めて(はめて)あるその石はねぇ、タンザナイトって言って、持ち主を成功へと導くパワーを持った石なの。

休日出勤までしてる柊悟にピッタリだと思って選んだんだよ。」

柊悟:「・・・そうなんだ。へぇ。」

澄夏:「無理しないで、頑張ってね。」

柊悟:「うん、ありがとう。

でも、今無理しちゃダメなのはお前だからな?

アクセサリー作りもいいけど、ちゃんと休めよ?」

澄夏:「うん。

・・・でも・・・。」

柊悟:「ん?なんだ?」

澄夏:「・・・いつ発作が起きるか分からないから・・・。先生にね、・・・次の発作が起きたら、どうなるか分からないって言われたから・・・。」

柊悟:「っ!」

澄夏:「・・・だいぶ身体が弱ってるんだって。・・・心臓も。

だから、やれる時にやっておかないと、心配で。いつどうなるか分からないから。」


柊悟:「(M)泣きそうな笑顔に、胸が締め付けられる。

澄夏はこんな時まで、笑おうとする。

怖いだろうに、泣き叫びたいだろうに。

どうして・・・おまえは・・・。」


(柊悟、澄夏の顔を覆うように抱きしめる)


澄夏:「?・・・なに?」

柊悟:「・・・泣いていいんだ。・・・泣けよ。誰も見てないから・・・。」

澄夏:「・・・・・。」

柊悟:「こんな時まで我慢するなよ。

俺の前では泣いていいんだ。

言ったろ?はけ口なるって。」

澄夏:「・・・でも・・。」

柊悟:「いいんだ。我慢するな。」

澄夏:「・・・だって・・・。」

柊悟:「・・・・・・。」

澄夏:「・・・・・う・・・ううっ・・・。(声を殺して泣く)」

柊悟:「・・・・・お前は頑張ってる。(頭を撫でる)」

澄夏:「・・うっ、・・・ううっうっ・・・。」

柊悟:「・・・・・俺の前では無理しないでくれよ・・・・・。」

澄夏:「うっ、うわぁぁぁ・・・・・。(堰を切ったように泣く)」



(数日後)



柊悟:「(M)澄夏は、病気等感じさせないほど、笑顔で元気だった。

306号室のアコちゃんと、『男はなぜ浮気をするのか』と言う議論をしていた時には、二人でキャンキャン俺を責めたて、ほとほと困り果てた。

いつも笑って、アクセサリーを作って、周りのみんなを笑顔にしていた。

それでも、たまに泣きたくなった時は、『ごめんね』と言ってから、俺に背中を預けて声を殺して泣く。

我慢しないでほしい俺と、涙を見せたくない澄夏の、お互いの妥協点だった。

俺は黙って背中を貸して、澄夏が泣き止むまで、ずっとそばにいた。

涙が止まると、決まって『ありがとう』と言って、笑顔を見せてくれる。

その笑顔が、俺の心を掻きむしり、そしてほっとさせてくれる。」



(しばらくの間)



柊悟:「(M)会社の帰り、病院に向かっていると、澄夏からLINEが来てることに気がついた。

俺の負担になりたくないからと、連絡先を交換した後も、滅多に送られて来ることのなかったメッセージ。」



澄夏:「ごめん、ありがと」



柊悟:「(M)そのたった8文字に、胸騒ぎがした。

俺は病院への道を全速力で走った。」



(少しの間)



柊悟:「(M)病室に着くと、綺麗に整えられたベッドに、澄夏が横たわっていた。

その白い肌からも、もう、澄夏が起き上がることはないのだと、痛感する。

俺は何も考えられなくて、何もすることが出来なくて、ただ、ぼぅっと澄夏の横に腰掛けていた。」



(少しの間)



柊悟:「(M)ふと目線を上げると、ベッドの横の机に、封筒が置いてあることに気がついた。

持ち上げると、中で何かカチャカチャ音がする。

封筒の表には、『柊悟へ』と書かれていた。


柊悟:手が震えて、なかなか開けられない。

ようやく開いた封筒の中からは、手紙と一緒に、コロンと何かが転がり落ちた。」




澄夏:『柊悟へ


澄夏:この手紙を柊悟が読んでるって事は、たぶん私はもう、空に昇ってるって事だと思います。

柊悟には、たくさん迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさい。

ずっとそばにいてくれて、ありがとう。

柊悟がいてくれたから、乗り越えられたことが、たくさんあります。

初めて出会ったあの日。声を掛けたのは、ほんの気まぐれでした。

私が終活でフリマに参加した時、自分で作った大好きな物達に囲まれているのに、全然テンションが上がらなかった。

さすがの私も塞ぎ込むばっかりで、どうしようかなと思っていたら、目の前を眉間に皺を寄せてしかめっ面で歩く柊悟を見つけて、思わず声をかけた。

だって、まるでこの世の終わりみたいな顔してるんだもん。

私よりよっぽど酷い顔だったんだから。

気になって声を掛けたけど、ここまで仲良くなれるとは思ってなかったな。

一緒にフリマをやって、柊悟の笑顔が見れたから、このまま離れようと思ったのに、まさかの偶然の再会!

あれには焦ったよ。先のない私と、これ以上関わっても、良い事ないと思ったから。

でも、柊悟は私を支えてくれました。

本当に嬉しかった。

本当にありがとう。

みんなに心配かけちゃいけないと、肩肘を張っていた私の心を溶かしてくれたのは、柊悟の優しい言葉でした。

私のはけ口になってくれて、本当にありがとう。

何回お礼を言っても伝えきれないので、これを送ります。』


柊悟:「(M)俺は手のひらに乗っているそれを見た。

それはカフスだった。

ネクタイピンと同じく、黒地にタンザナイトが填まっている(はまっている)。

そしてタンザナイトの横に、もう一つの薄紫の石・・・。」


澄夏:『カフスです。仕事も頑張っていて、その上私にもその優しさを分けてくれた、柊悟の為に作りました。

もう一つの石は、クンツァイト。

石言葉は「無限の愛」。

柊悟の為にあるような石だよね。

柊悟は、その優しさと愛で、私を包んでくれました。

本当に暖かかった。

暖かくて、私は向日葵のように、陽だまりのようなあなたをいつも目で追っていました。

私の最期に、寄り添ってくれてありがとう。

一緒にいればいるほど、あなたに辛い思いをさせるとわかっていても、どうしても離れられなかった私を、許してください。

全部、ぜーんぶ諦めたはずなのに、まだ柊悟と一緒にいたいだなんて、今更わがままだよね。

でも、柊悟といられた時間が、私には大切で、宝物になりました。

何度言っても足りないけど、本当にありがとう。

大切なあなたが、幸せになる事を祈っています。


澄夏』



柊悟:「うっ・・す、みか・・・す・・みか・・・。

うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


柊悟:「(M)涙がとめどなく流れる。

いくら流しても、枯れることはない。」


柊悟:「俺も・・・俺も、もっと・・・一緒に・・・(泣く)」



(しばらくの間)



柊悟:「(M)澄夏が亡くなって、もう3ヶ月が過ぎた。

俺は澄夏と出会う前の日常に戻っている。

だけど、澄夏と過した日々は、俺を変えてくれた。

澄夏は、俺の幸せを祈っていると言ってくれた。

俺はその気持ちに応えていくだけだ。

前向きに、いつも笑顔で、辛い顔をほとんど見せることのなかった澄夏。

その笑顔で、周りのみんなを笑顔にしてしまう澄夏。

そんな向日葵のような笑顔の彼女を、俺は忘れない。


柊悟:今日も、彼女に貰ったネクタイピンとカフスと共に、空を見上げて前へ進む。」



END